坂口安吾の評論。1946年4月《新潮》に発表。この1作で坂口安吾は流行作家になった。〈戦争は終った。特攻隊の勇士はすでに闇屋となり,未亡人はすでに新たな面影(おもかげ)によって胸をふくらませているではないか〉といい,人間が変わったのでなく,ただ人間へ戻っただけで,〈生きよ堕ちよ,その正当な手順のほかに,真に人間を救いうる便利な近道がありうるだろうか〉と説くこの評論は,敗戦直後の混乱期に方途を失っている日本人の多くにひとつの指針を与えた。しかし,論旨は戦争下の1942年に書かれた《青春論》の淪落(りんらく)のすすめと同一で,高いもの,純粋なものへの希求の逆説的表現が,一種哀切なトーンを生んでいるといえる。
執筆者:大久保 典夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報