塩吹き臼(読み)しおふきうす

日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩吹き臼」の意味・わかりやすい解説

塩吹き臼
しおふきうす

昔話異郷から得た不思議な力をもつ道具を主題にした宝物譚(たん)。年越しの夜に、貧しい弟が兄のところへ食物を借りに行く。断られて困っていると、不思議な老人から、好きな物の出せる粉挽臼(ひきうす)をもらう。弟はそのおかげで金持ちになる。それを見てうらやましくなった兄は、臼を盗み、船で逃げる。船の上で塩を出すが、止め方を知らないので塩がいっぱいになり、船は海に沈む。いまも臼は海底で回り続けており、それで海の水は塩辛いのであるという。

 ヨーロッパを中心に世界的に分布しているが、類話の数は北ヨーロッパに偏っている。ことにフィンランドスウェーデンデンマークアイルランドなどに集中しており、この地域がこの昔話の伝承中心地の一つであったことは疑いない。北ヨーロッパの古代叙事詩おもかげを伝えるアイスランドの12世紀の『エッダ』のなかにもすでにみえており、叙事詩のような形で古くから語り継がれてきたものであろう。

 日本でも相当によく知られた昔話の一つである。朝鮮にも多く分布し、中国インドネシアにもある。東アジアも微弱ながら中心地の一つで、この地域でもそれなりに古い歴史があったものと思われる。中国大陸の内陸部には、塩のことに及ばない不思議な石臼の話もあり、分布の背景にはさらに奥行がある。北ヨーロッパには、日本と同じく、「兄弟話」の型をとり、クリスマスの夜に食物を借りに行くという例もあり、二つの中心地の類話は、歴史的にきわめて近い関係にあったらしい。

[小島瓔

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「塩吹き臼」の意味・わかりやすい解説

塩吹臼 (しおふきうす)

昔話。海の水の塩辛い理由を説く物語。むかし,兄弟があった。ある正月弟が兄から魚をもらって帰ってくると,途中で老人が石臼と魚を交換しようという。それは望みの品物が出る宝の石臼である。弟は宝の石臼を得て幸運を約束される。それをうらやむ兄は,石臼を奪い海上に出て,呪文を唱えて塩を出す。しかし石臼を止める呪文を知らなかったので,止まることなく塩が出て兄は石臼とともに海中に没する。石臼は今も海底で塩を吹き出すので海水は塩辛い,と語る。この昔話は,かなり古い時代にユーラシア大陸から渡来したものとされる。国際的には〈魔法の石臼The magic mill〉に該当する。しかし日本のこの昔話は,打出の小槌や瓢簞から塩が出ると語られるなど,日本の民俗と融合した姿で定着している。兄弟の一方が富を得て,他が滅びると語られるのは,昔話における“二元論”としてよくみられる型である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「塩吹き臼」の意味・わかりやすい解説

塩吹臼【しおふきうす】

日本の昔話。情深い兄が思いのままの物が出てくる臼をもらう。欲深い弟がそれを奪って舟で逃げ,臼をひいて塩を出すが,止め方を知らないので塩が舟にあふれて沈没。今も海底で臼が回り続けているので海の水はからいという。類話は日本のほか朝鮮,中国,東欧,北欧にも分布。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

戒厳令

一般的には指定地域で、国の統治権の全部または一部を軍に移行し、市民の権利や自由を保障する法律の一部効力停止を宣告する命令。戦争や紛争、災害などで国の秩序や治安が極度に悪化した非常事態に発令され、日本...

戒厳令の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android