日本大百科全書(ニッポニカ) 「外国判決」の意味・わかりやすい解説
外国判決
がいこくはんけつ
foreign judgment
外国裁判所の判決。
概説
国際法上、国家主権は相互に独立しているので、たとえば、A国の裁判所の判決の効力をB国がB国領域内で認め、また強制的にその内容を実現すべく強制執行する義務はない。しかし、だからといって、相互に外国判決の効力をまったく認めないこととすると、国境を越えて営まれている人や企業の活動の実態からみて不適当である。とくに私人の権利義務や法律関係にかかわる民事判決については、国境を越えれば判決の効力はいっさい及ばないとすれば、たとえば、A国で支払義務がある者がB国に財産をもっていても手出しができず、また、A国で離婚判決を得ているのにB国では夫婦のままであって再婚ができないといった不都合が生ずる。そこで、外国民事判決と外国刑事判決とに分け、外国民事判決については、国際的な法秩序の構築・維持の観点から、あるいは他国の国家行為に一定の敬意を払うという国際礼譲international comityに基づき、判決の効力を受け入れる国の側で一定の要件を設けて、それを具備することを条件に外国判決に一定の効力を認める例が一般的である。もっとも、中国などのように、民事判決についても相互に条約に基づく約束をしていない限り外国判決の効力はいっさい認めない国もある。他方、外国刑事判決については、それが刑罰というきわめて公権力性の強いものであり、各国の公益に深く根ざしたものであるため、原則として外国の判決に基づいて刑の執行をするということはない。なお、外国から逃亡してきた犯罪人については、一定の範囲で、犯罪人の引渡しを行っている(日本では逃亡犯罪人引渡法)。
外国民事判決の承認・執行については、ヨーロッパ各国の間では18世紀ごろから2国間条約による取決めをしていた。そして、EC(ヨーロッパ共同体)の設立条約において、域内での判決の相互承認・執行を図る取決めをするための作業をすべきことが規定されたため、1968年に「民事及び商事に関する裁判管轄及び判決の執行に関する条約」(ブリュッセル条約とよばれる)が作成され、これがECの加盟国拡大に伴って改正され、さらに、2002年からは原則としてEU(ヨーロッパ連合)加盟国の間では規則の形で施行されている。また、EU加盟国はスイス、アイスランド、フィンランドの3か国との間でもほぼ同様の内容の規定を適用することを定めたルガノ条約とよばれる条約を1988年に締結しており、実質的に、ヨーロッパの主要国の間では国際裁判管轄と外国判決の承認・執行の基準がその相互関係については統一されている。また、中南米諸国の間にも、ラ・パス条約とよばれる枠組みが存在する。これらの地域条約に対し、アメリカや日本を含む世界全体をカバーする条約はまだ存在しない。そこで、19世紀の末から国際私法の統一を任務とする活動をしてきた国際機関であるハーグ国際私法会議は1996年から国際裁判管轄ルールの規律も含む世界的な条約の作成作業を進めたが、アメリカと他の国々の国際裁判管轄ルールの違いが大きく、2005年に管轄合意条約だけが作成され、2015年に発効した。その後、外国判決の承認・執行だけに対象を絞り、2019年に「民事又は商事に関する外国判決の承認及び執行に関する条約」が作成された(未発効)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
日本における外国民事判決の扱い
日本における外国裁判所の民事判決の扱いについては、民事訴訟法第118条においてその効力の日本での承認について規定され、民事執行法第24条においては強制執行について規定されている。後者は前者の定める要件をそのまま引用して規定しているので、両者とも要件は同じである。すなわち、外国裁判所の確定判決であること(民事訴訟法118条柱書)、判決を下した外国裁判所が日本からみて国際裁判管轄を有すること(間接的一般管轄の要件、同法118条1号)、敗訴の被告が公示送達等によらないで訴訟の開始に必要な呼出し・命令の送達を受けたこと、または応訴したこと(同法118条2号)、判決の内容・訴訟手続が日本の公序に反しないこと(同法118条3号)、および相互の保証があること(同法118条4号)、という要件である。裁判の当否は審査されない(本案再審査の禁止、民事執行法24条2項)。要件を具備している外国判決は特別の手続を経ることなく日本での効力を認められる(自動承認制度)。承認される効力は判決国法上のそれであるが、人的・物的範囲が日本からみて広すぎる場合には部分的な承認にとどめられる。執行力は日本での執行判決請求訴訟により付与される。なお、離婚判決などの人事に関する事件の判決の承認については民事訴訟法第118条がそのまま適用されるが、養子縁組や未成年後見などの家事に関する事件の裁判の場合は相手方がいない事件類型もあることから、民事訴訟法第118条2号の送達の要件は該当しないこともあり、同条が準用される旨規定されている(家事事件手続法79条の2)。
具体的に争われた事例として、たとえば、アメリカのカリフォルニア州の裁判所が現地子会社の親会社にあたる日本企業に懲罰的損害賠償の支払いを命ずる判決を下し、その日本での執行が求められた事例において、最高裁判所平成9年7月11日判決(民集51巻6号2573頁)は、そのような見せしめのための制裁的な判決を執行することは日本の公序に反すると判断し、その執行を認めないとした。これについては、そもそも民事判決に該当しないとの理由で同じ結論を導くべきであるとの見解もある。また、ワシントンDCで下された判決の日本での執行が求められた事案において、最高裁判所昭和58年6月7日判決(民集37巻5号611頁)は、日本と重要な点で異ならない条件の下に日本の判決の効力を認めている場合には相互の保証があるものと扱うと判断し、その判決の執行を認めた。これは、日本における外国判決承認・執行要件と同じかそれよりも緩やかな条件で日本判決を認めるのでなければ、相互の保証の要件が具備されたとは認めないとしていた大審院の判決を変更したものである。
[道垣内正人 2022年4月19日]
日本における外国刑事判決の扱い
刑法は、一定の犯罪については、国外犯の処罰を定めている。その結果、外国で行われた行為については、その外国の刑法違反となると同時に、日本の刑法にも違反するということがある。たとえば、殺人罪については、犯人が日本人であれば、外国で殺人が行われても、日本の刑法第199条の適用対象とされる。その行為は、その行為のなされた国の刑法違反ともなるため、一つの行為について二つの国の法律に反するということになる。そこで、ある行為について外国で処罰された後、日本でふたたび処罰することができるかが問題となる。一般に、刑罰をもって保護されている法益はその法律を制定している国のものであるので、外国で刑事判決を受けて処罰されたからといって、日本の法益が回復されるわけではない。そのため、刑法第5条によれば、外国において確定判決を受けた者に対しても同一の行為が日本法上も犯罪となるのであればさらに処罰をしてよいとされている。ただし、外国で刑の全部または一部の執行を受けたときは、日本での刑の執行は軽減または免除される。
なお、既述の外国民事判決のようには、外国刑事判決を日本で執行することはない。そもそも刑事裁判は被告人の出廷が要件とされているのが通常であるので、被告人が欠席したまま裁判をすることは原則としてなく、外国に被告人となるべき者がいる場合には犯罪人引渡しを求めることになる。
[道垣内正人 2022年4月19日]
『芳賀雅顕著『外国判決の承認』(2018・慶應義塾大学出版会)』