国際礼譲(読み)こくさいれいじょう(英語表記)international comity

改訂新版 世界大百科事典 「国際礼譲」の意味・わかりやすい解説

国際礼譲 (こくさいれいじょう)
international comity

国家間の関係を円滑にするために,儀礼上,諸国によって尊重されている慣行広義国際慣行に含まれるが,礼儀便宜好意に基づく行為という点で,国際慣行よりは狭い概念である。国家の代表者の敬称,国家の代表者の公式の会合における席順,国家の代表者や軍艦の公式訪問に対する礼砲,犯罪を犯した外国の軍隊構成員の身柄引渡し,などがこれにあたる。国際礼譲は国際法の規則ではないので,これに反する行為を国家が行ったとしても,それによってその国家が国際法上の責任を問われることはない。せいぜい道義的非難をあびるにすぎない。もっとも,国際礼譲が諸国の法的信念を伴うことによって,国際法の規則に発展することも少なくない。たとえば,今日の外交使節や外国人の待遇に関する国際法の規則の多くは,国際礼譲が慣習国際法に発展したものである。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際礼譲」の意味・わかりやすい解説

国際礼譲
こくさいれいじょう
international comity

国際社会における儀礼、好意または便宜に基づく規則(習俗)。国家元首就任に際し他国の元首が祝辞を呈したり、公海上で遭遇した異なる国の軍艦が相互に敬礼を交わすなど形式的事項に関することもあれば、犯罪人の引渡しは関係国の条約によって規制されなければ法的義務でないが、好意的に引き渡す習わしになっていることにみられるように実質的事項に関することもある。国際礼譲は国際法と異なり、違反しても違法行為として国家責任を追及されることはないが、国家間の交際を円滑にするための潤滑油的な働きをしている。かつては国際礼譲であったが、法的信念が醸成され、国際法に転化したものもある。外交特権はその代表的事例である。

[内田久司]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国際礼譲」の意味・わかりやすい解説

国際礼譲
こくさいれいじょう
international comity

もともとは国家間に行われる儀礼的あるいは好意的行為をさす意味で用いられた。たとえば,新しい君主あるいは大統領が就任した場合,他国に通知し,通知を受けた国は慶祝の辞を送ること。また君主や大統領が正式に訪問した場合には,軍艦,軍隊は祝砲を放ち祝意を表わす。しかしこの概念はさらに拡大して,国際法規が不明確な場合における他国の管轄権限の行使に対して,それを容認する根拠およびそれを排除する根拠として用いられた。逃亡犯罪人引渡し条約を結んでいない国に対し,その国の請求に応じて犯罪人を引渡すことなどがその例としてあげられる。国際礼譲は,国際法の規則ではないが,国際礼譲から国際法の規則が育つことが少くない。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android