日本大百科全書(ニッポニカ) 「多発神経炎」の意味・わかりやすい解説
多発神経炎
たはつしんけいえん
いろいろな原因によって末梢(まっしょう)神経が同時に対称的に障害される病気。原因としては、ジフテリアのような細菌毒素、アルコールや鉛、ヘキサンのような中毒性物質によるものをはじめ、糖尿病のような代謝異常による場合、脚気(かっけ)のようなビタミン欠乏による場合、レフサム病のような先天性脂質代謝異常によって遺伝的に現れる場合などのほかに、原因不明ではあるが、おそらくなんらかのウイルス感染が推定される場合や、自己免疫異常によってアレルギー性神経障害をおこすものもある。ギラン‐バレー症候群(特定疾患)は原因不明の急性ないし亜急性多発神経炎で、四肢末端から始まる四肢筋の筋力低下、温痛覚や触覚の鈍麻が徐々に進行するもので、四肢のみならず顔面神経の麻痺(まひ)がみられることも少なくない。多くは感冒様症状、すなわち軽い発熱や下痢などが先行し、1週間ないし10日目ころから神経障害が現れてくるのが通例である。
多発神経炎の症状としては、四肢の末端から始まる筋力低下と感覚鈍麻であるが、そのほか発汗異常、起立性低血圧、膀胱(ぼうこう)・直腸障害など自律神経の麻痺を示す場合もあり、アミロイド神経炎では自律神経障害が早くから現れてくるのが特徴とされている。神経炎といっても炎症をおこしている病変ではなく、末梢神経を包んでいる髄鞘(ずいしょう)に病変がみられる場合と、軸索に病変が認められるとする場合とがある。検査では末梢神経の伝導速度の低下がみられ、神経の生検により病変の性格の違いが確かめられる。治療としては、ビタミンの服用およびステロイド剤の併用などが試みられている。また、リハビリテーションによる機能回復訓練も有効である。
[里吉営二郎]