大学の公共性(読み)だいがくのこうきょうせい

大学事典 「大学の公共性」の解説

大学の公共性
だいがくのこうきょうせい

[日本の大学公共性)における公共性]

大学が社会制度に組み込まれている限り,それが広く社会一般に影響や利害を及ぼすという公共的性質を有することは明白である。現在の日本において大学は,学校教育法1条に定める学校の一つである。その前提として教育基本法6条では,「法律に定める学校」が「公の性質を有するもの」とされ,それを設置することができるのは「国,地方公共団体及び法律に定める法人のみ」と規定されている。さらに同法7条および学校教育法83条において,大学は教育・研究の「成果を広く社会に提供することにより,社会の発展に寄与するもの」とされる。また公私立大学の設置認可は,文部科学大臣が大学設置・学校法人審議会への諮問を経て行う。国立大学の認可は不要(学校教育法4条)であるが,その設置者である国立大学法人は国立大学法人法の規定によって設立される。学校法人によって設置される私立学校(大学)についても「公の性質」を有する(教育基本法8条)ことが明記され,さらに私立学校の「自主性を重んじ,公共性を高める」(私立学校法1条)ことが法律で定められている。

 財政的には,国公立大学に公的資金が付与されるのはもちろんであるが,1970年(昭和45)以降,私立大学の経常費への国からの財政補助が制度化されている。ちなみに日本国憲法89条は,「公の支配に属しない慈善,教育若しくは博愛の事業」に対する公金の支出を禁じており,私学振興助成がこれに抵触するのではないかとの議論があるが,現在の定説では合憲とされる。このように現在の日本の大学は,設置者の別を問わず公の性質をもつと認められる。

[多義的な公共性概念]

公共性という概念は多義的である。たとえば大学は,教育の機会等の原則に基づき能力のある者にはその門戸を開いていると考えられる。しかし公園のように,利用する意思のあるものなら基本的に誰でもが受け入れられるような開放的な場ではない。また公の性質をもつとされていても,設置者や個々の大学の条件によって政府によって投入される公的資金に差異がある。このことは大学の利用者,とくに教育を受ける者の経済的負担に格差をもたらしている。他方で,大学の研究教育活動が生み出す知見や能力は,それを直接的に享受する個人の私的な便益に寄与する。ただしそれにとどまらず,大学教育を受けなかった人や社会全体の発展にも外部効果をもたらす。このように大学の公共性については,どのような観点に立つかによってその意味が異なってくる。

 公共性概念の分類・定義は論者によってさまざまであるが,おおむね次のような要素を意味として含む概念であると考えられる。すなわち,①国や政府によるはたらきや事柄にかかわる「公権力性(公共性概念)」,②すべての人々に共有され,広く一般的に共通する「共通性(公共性概念)」,③誰に対しても事項や状況が開放されている「公開性(公共性概念)」である。前述したような法的・制度的・財政的な観点からの大学の公共性は,主として①の意味を根拠としている。一方で,いわゆるユニバーサル化やグローバル化の傾向のなかで,現代の大学の公共性には②や③の意味も強く含まれるようになっている。また近年,特定の人々によって形成される言説や議論の空間としての「公共圏」や,その多元的なネットワークとして不特定多数の人々によって展開される「公共的空間(領域)」を想定することで,新たな公共性概念も構成されている。

 現代の大学の歴史的淵源とされる中世ヨーロッパの大学は,学生や教員による自発的で自治的な団体を核として自生的に成立したとされる。大学では,各地から学生や教師が集まること(公開性)によって地域を越えた普遍性が形成され,共通の言語(ラテン語)による共有度の高い内容(テクスト)を用いた(共通性)学問活動が展開された。もっとも大学の制度・組織,とくにその固有の権能である学位授与権が確立・発展する過程において大学は,次第に教皇(教会),神聖ローマ皇帝,都市,国家(国王)などの聖俗諸権力からの保護や監督,特権付与,認可といった関係に編み込まれることになり,「公権力性」としての公共性を獲得するようになる。近代の大学では,国家的な権力や制度に組み込まれることで公開性や共通性が弱まり,その公共性の意味における公権力性の比重が高まった。

 大学が知の制度・組織体である限り,その公共性は公権力性を根拠とするだけでなく,大学が自ら構成した理念・思想に基づく質保証の努力によって,さらなる公開性や共通性の担保をめざして構築される必要があるだろう。そのためには現代の大学を,国境を越えた視野のもとで,あらためて言説や議論の空間・領域として編み直すことが求められる。
著者: 松浦良充

参考文献: 齋藤純一『公共性』(思考のフロンティア)岩波書店,2000.

参考文献: 児玉善仁「中世大学における公共性の転換構造―ボローニャとパリの学位試験制度」『大学史研究』第20号,大学史研究会,2004.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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