大学職員の専門職化(読み)だいがくしょくいんのせんもんしょくか

大学事典 「大学職員の専門職化」の解説

大学職員の専門職化
だいがくしょくいんのせんもんしょくか

大学職員の専門職化とは,職員が事務処理だけでなく,大学の教育・研究の発展や大学経営の強化に必要な専門的な力量を向上させ,より高度な役割を担うことをいう。以前よりさまざまな角度から議論され,プロフェッショナルな職員の育成,大学アドミニストレーター(大学行政管理職)への進化などが多くの論者によって提起されてきた。大学職員は教員も含む概念であるが,本項目では日本における事務職員を対象としておもに論じつつ,大学行政に従事する教員も含むものとする。

 大学職員は,大学設置基準41条で「大学は,その事務を処理するため,専任の職員を置く」と規定されており,同42条で「学生の厚生補導を行うため,専任の職員を置く」となっている。唯一,図書館には「その機能を十分に発揮させるために必要な専門的職員(日本)」を置く(38条3項)と位置付けている。実際には職員は事務処理だけではなく,多くの分野で専門的な立場から企画・提案,教育・研究支援を行い,高度な専門的職務にも従事しており,職員が現実に果たしている役割と法令上の規程には齟齬が生じている。

[専門的職員の現状]

文部科学省は2015年,専門的職員に関わる初めての本格的な全国調査を行った。図1「専門的職員の配置状況」からわかるように,現在,専門職として配置されているのは図書館(司書),学生の健康管理分野(保健師,看護師),情報管理分野(IT資格取得者),就職支援(キャリア・カウンセラー)などが多い。しかし,図2「今後配置したい職務でとくに重要と考える専門的職員」からは,IR(インスティチューショナル・リサーチ)分野,データを分析し課題を見つけ政策提案ができる人材や「執行部判断に対する総合的補佐」など,特定分野の専門家というよりはトップを支えて,必要な政策立案や改革の推進を担える力を持った総合力のある人材が求められていることがわかる。教育・研究支援を担う専門職人材と大学全体を目的達成に向けて動かす人材だといえよう。

 一般に専門職とは国家資格等を必要とする職業と狭く解釈する場合や,「職能団体」「学会」「倫理綱領」があるなどの要件をあげる見解もある。アメリカ合衆国では意思決定を行う上級管理職やその執行を担う高度専門職が確立しており,職種ごとに組織された大学職能団体があってその専門性が保持されている。また求人,求職と採用の市場も確立しており,日本よりはるかに大学間の流動性が高いとされる。しかし,日本では専門職としての大学職員の定義,資格基準,養成方法も十分確立していないのが現状である。

[専門職化についての近年の議論]

以上のような背景から,2015年からスタートした第8期中央教育審議会(以下,中教審)の大学分科会や大学教育部会では,職員のあり方が重要議題の一つとして議論されてきた。テーマは大学職員の資質向上,SD(スタッフ・ディベロップメント)の義務化,「事務組織」の位置付けの見直し,「専門的職員」の配置のあり方や定義付けなどである。こうした議論の背景には,2014年の中教審大学分科会「大学ガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」で,「学長(日本)がリーダーシップを発揮し,教育・研究機能を高度化するために職員の役割は決定的に重要で,教員と対等な立場で大学運営に参画すること,力量向上のための組織的な研修,高度な専門性を有する人材(専門的職員)の配置を法改正で行うべきだ」との提起がある。

 大学職員の専門職化については,これまでの中教審答申,2008年の「学士課程教育の構築に向けて」,2012年の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」でも「専門性を備えた大学職員や,管理運営に携わる上級職員を養成する」「業務の高度化・複雑化に伴い,大学院等で専門的教育を受けた職員が相当程度いる」「教員だけでなく,職員等の専門スタッフの育成と教育課程への組織的参画が必要」などと提起されている。そして具体的な専門職として,インストラクショナル・デザイナー,研究コーディネーター,学生支援ソーシャルワーカー,リサーチ・アドミニストレーター(URA),インスティチューショナル・リサーチャー(IRer),アドミッション・オフィサー,カリキュラム・コーディネーターなどがあげられている。

[専門職化の今後の方向]

こうしたことを総合すると,教育・研究の質向上には分野ごとの高度な専門職が求められ,また大学マネジメントの強化には総合力のある専門人材が求められているといえる。これを孫福弘は大学行政管理職員と学術専門職員として位置づけた。大学行政管理学会の研究でも,大学職員の専門性とは特定分野の専門家とともに,高等教育全体に深い知見を持ち,当該大学の基本政策や固有の事情に精通し改革推進をリードできる人材を,ゼネラリストでありながら専門性を備えた職員と見なすべきとしている(山本淳司「大学職員の専門性に関する一考察」『国立大学マネジメント』2006年12月号)。直面する大学改革の推進には,この二つの領域での大学職員の専門職化が求められており,両者の協力,結合なしには大学全体を動かしていくことはできない。大学の中長期の目標実現を担う大学職員の専門職化のより一層の推進と,その育成システムの確立が強く求められている。
著者: 篠田道夫

参考文献: 高野篤子『アメリカ大学管理運営職の養成』東信堂,2012.

参考文献: 孫福弘「21世紀の大学を担うプロフェッショナル職員」『SDが変える大学の未来』文葉社,2004.

参考文献: 篠田道夫「中教審が議論する職員の新たな役割と運営参画の必要性」『Between』2015年12月号.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報