定置網のうち歴史的に最も注目される台網の一種。台網とは垣網と身網とよりなる建網で,浮子(あば)と沈子(いわ)とを用いて網を魚道に定置し,そこを回遊する魚が垣網に誘導されて身網に入るようにし,身網を起こして魚を捕獲するものであった。台網類には相当に大規模なものが多く,マグロ,ブリ,サケ,ニシン等を主要漁獲物としていた。日本の台網類の発達には次の4系統があったという。(1)長門・肥前を中心とする西南系大敷網,(2)越中・能登を中心とする北陸系台網,(3)陸前・陸中を中心とする東北系大網,(4)陸奥・北海道方面の建網である。これらのうち東北系大網は江戸時代以前から使われていたようであるし,北陸系台網も天正年間(1573-92)には存在しており,台網類の開発はかなり早かった。そしてそれらは幕末期に大謀型(大謀網)が生まれてくるまで,すべて大敷型であったとみられる。すなわち台網類には大敷型と大謀型とがあり,前者の身網は三角形に近い梯形または放物形をなし下辺が全部開口して網口となり,魚が身網に入りやすいかわりに入っても逃げ出しやすかった。後者の身網は楕円形などで,魚が入りにくい嫌いはあるが一度入ったらなかなか逃げ出しにくい長所をもっていた。この大謀型が導入されたのは江戸時代では東北系大網と陸奥・北海道方面の建網だけであった。
網材料は多く藁縄で,幕末期にようやく身網の一部に麻網が使われはじめるようになってきていた。そして当時の日本の漁業の大勢と同様に,明治中期には台網類漁業の生産は衰退傾向をみせるものが多くなっていた。しかし,台網類においては,沿岸漁業の中で比較的早期にそのような状態から脱出するための技術改良が達成された。第1に1892年(明治25)宮崎県の日高亀市・栄三郎父子によって新たなブリ大敷網が考案された。この日高式大敷網は従来の大敷網と異なり,身網が全部麻網で作られ,網形も2倍以上の大きさであった。その網起しには6人乗りの漁船16隻,9人乗りの漁船4隻を必要とし,従来のものに比較するとかなり沖に定置でき,また昼間の漁労が可能になった。そして1網当りの漁獲量もずっと大きかったので,地元の宮崎県はもとより広く他府県に普及した。さらに日高父子は工夫を重ねて1910年にブリ大謀網を発明した。これはより高能率の大規模漁網であったから他府県に普及し,各地の台網類の改良を促進する役割も大きかった。それがさらに改良されてより高能率の落網(おとしあみ)の時代に入っていくことになるが,それは昭和期以降のことであった。
執筆者:二野瓶 徳夫
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漁業の網漁具のうち、定置網の台網(だいあみ)類の一種。魚の通路を遮断して誘導する垣網(かきあみ)と、網に入った魚を漁獲する袋網(囲網(かこいあみ))の2部で構成され、袋網の形は三角形に近く、その一辺が魚群の入口として開口している。この網は大型定置網の初期のもので、江戸時代初期から明治末期まで全国的に普及し、イワシ類、ニシン、ブリ、マグロ類など沿岸に回遊する魚類を対象とした。陸上の高台や櫓(やぐら)に見張り台を設置し、魚群が入網するのを確認してから揚網したが、袋網の網口が広いため魚が入網しやすい反面、逃げ出しやすい構造でもあった。そのため改良され、大謀網(だいぼうあみ)へとかわった。大謀網は、袋網を長方形とし、潮上(しおがみ)側の身網と端口(はぐち)の接点に垣網を結着させ、端口の両端に障子(しょうじ)網を身網の内側に設置するなどしたため、袋網に入網した魚が逃出しにくい構造となっている。その後、大敷網、大謀網とも姿を消し、漁獲効率のよい落し網類へと変遷した。日本には現在でも大型落し網を大敷網とよんでいる地方がある。外国でも各種の定置網で操業しているが、大型定置網は少ない。そのなかでも、イタリアのシチリア島で行われるマグロ大型定置網はその代表的なものであり、構造が大謀網に類似している。
[添田秀男]
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…この類の網は規模も大きく漁場も外海で,しかも湾入個所にあって回遊魚が漁期になると必ず来遊する魚道であることが必要であった。台網は身網の形状から大敷網と大謀網に分けられる。大敷網は身網が三角形に近く,その一辺が魚の入口として開口しているものをいい,大謀網は身網が楕円形または矩形,八角形などをしていて,魚の身網への入口がその一部に開口しているものをいう。…
※「大敷網」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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