デジタル大辞泉
「彼方」の意味・読み・例文・類語
あ‐な‐た【▽彼▽方】
[代]
1 遠称の指示代名詞。
㋐離れた場所・方向などをさす。向こう。あちら。
「山の―の空遠く」〈上田敏訳・海潮音・山のあなた〉
「北の障子の―に人の気配するを」〈源・帚木〉
㋑以前。昔。
「昨日今日とおぼすほどに、三年の―にもなりにける世かな」〈源・朝顔〉
2 三人称の人代名詞。対等または上位者に用いる。あちらのかた。あのかた。
「―にも語らひのたまひければ」〈源・藤裏葉〉
[補説]1㋐から2を経て、近世中期に上位者に用いる二人称人代名詞「あなた(貴方)」の用法が生まれた。
[類語]向こう・あちら・あっち・彼方・こちら・こっち・そちら・そっち・彼岸
か‐な‐た【▽彼▽方】
[代]遠称の指示代名詞。
1 話し手・聞き手の双方から離れた場所・方向をさす。また、現在から遠く離れた過去・未来を示す。あちら。あっち。「彼方の山」「忘却の彼方」
2 ある物に隔てられて見えない場所・側などをさす。向こうがわ。「山の彼方」「海の彼方の国」
[補説]書名別項。→彼方
[類語]向こう・こちら・此処・こっち・そちら・そっち・あっち・あちら・彼処
あ‐ち【▽彼▽方】
[代]遠称の指示代名詞。あっち。あちら。
「畠主、―へまはり、こちへまはりして」〈虎明狂・竹の子〉
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
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あ‐な‐た【彼方・貴方】
- 〘 代名詞詞 〙
- [ 一 ] 他称。話し手、聞き手両者から離れた方向、時、人などを指し示す(遠称)。かなた。
- ① あちら。向こうのほう。
- [初出の実例]「冬ながらそらより花のちりくるは雲のあなたは春にやあるらむ〈清原深養父〉」(出典:古今和歌集(905‐914)冬・三三〇)
- 「あなたの玉章(たまづさ)こなたの文(ふみ)」(出典:謡曲・卒都婆小町(1384頃))
- ② 以前。過去。
- [初出の実例]「昨夜(よべ)も、昨日の夜も、そがあなたの夜も」(出典:枕草子(10C終)二九二)
- ③ 未来。
- [初出の実例]「目の前に見えぬあなたの事はおぼつかなくこそ思ひわたりつれ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜上)
- ④ あのかた。あちらの人。対等または上位者に対して用いた。
- [初出の実例]「いなや、この落窪の君のあなたにの給ふことに従はず、あしかんなるはなぞ」(出典:落窪物語(10C後)一)
- 「なんとしてぞ、此文をあなたへとどけずはなるまいが、どうしてよからふな」(出典:虎明本狂言・文荷(室町末‐近世初))
- [ 二 ] 対称。対等または上位者に用いた。宝暦(一七五一‐六四)頃から用例が見られる。貴男、貴女などとも書く。現在では、対等あるいは下位の者に用い、また、妻が夫に対して用いることもある。
- [初出の実例]「あられもない所はお免なされ升ふ、殿さま、どふぞあなたのお取なしで」(出典:歌舞伎・傾城天の羽衣(1753)序幕)
- 「『何故貴君(アナタ)、今夜に限ってさう遠慮なさるの』『デモ貴嬢(アナタ)お一人っ切りぢゃア』」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一)
彼方の語誌
上代に遠称として離れた場所・方向・時・人などを表わした「かれ」「かなた」などに替わって中古から用いられた。
あっ‐ち【彼方】
- 〘 代名詞詞 〙 ( 「あち(彼方)」の変化した語 )
- ① 他称。話し手、聞き手から離れた方向などを指し示す(遠称)。また、二つの物のうち、話し手、聞き手から遠い方の物を指す。
- [初出の実例]「大雨水両涯漫々としてあっちのきしの馬牛不可弁也」(出典:杜詩続翠抄(1439頃)二)
- 「まだそこにおるか。あっちへうせおれ」(出典:虎明本狂言・末広がり(室町末‐近世初))
- ② 名詞的用法。
- (イ) 冥土(めいど)。あの世。
- [初出の実例]「十に八九は冥土(アッチ)の者」(出典:歌舞伎・籠釣瓶花街酔醒(1888)四)
- (ロ) 遊里。
- [初出の実例]「あれが里(アッチ)の癖だアナ」(出典:人情本・英対暖語(1838)初)
- (ハ) 外国。
- [初出の実例]「いにしへ安部仲麿は、古里の月を、おもひふかくは読れしに、我はまた、あっちの月、思ひやりつると」(出典:浮世草子・好色一代男(1682)八)
あち‐ら【彼方】
- 〘 代名詞詞 〙
- [ 一 ]
- ① 他称。話し手、聞き手両者から離れた方向、場所を指し示す(遠称)。また、二つのもののうち、話し手、聞き手から遠いほうを指す。
- [初出の実例]「死して為レ隣とよむか。又死を為レ隣の心か。となりはあちらなり。死せうすことがちかいと云心か」(出典:玉塵抄(1563)二四)
- ② 他称。話し手、聞き手両者から離れた人を指し示す(遠称)。
- [初出の実例]「兄(あに)さん、其三味線箱、あちらへ上げてくんなんし」(出典:洒落本・遊子方言(1770)霄の程)
- [ 二 ] 名詞的用法。外国、特に欧米を指す。
- [初出の実例]「万民を救護さるる、神聖なる人だと西土(アチラ)の書籍(ほん)に記してあるといはれました」(出典:開化のはなし(1879)〈辻弘想〉初)
か‐な‐た【彼方】
- 〘 代名詞詞 〙
- ① 他称。話し手、相手両者から離れた方向を指し示す(遠称)。また、現在を起点として過去・未来の時間を示す。
- [初出の実例]「今より以往(カナタ)は永に復作らずして当来に所有(あらえ)む罪障を防護せむ」(出典:地蔵十輪経元慶七年点(883)七)
- 「かなたの庭に大きなる柑子の木の、枝もたわわになりたるが」(出典:徒然草(1331頃)一一)
- ② 他称。物に隔てられて見えない側を指し示す(遠称)。むこう側。
- [初出の実例]「箭を放つ、鹿の右の腹より彼方(かなた)に鷹胯を射通しつ」(出典:今昔物語集(1120頃か)一九)
あ‐ち【彼方】
- 〘 代名詞詞 〙 他称。話し手、聞き手両者から離れた方向を指し示す(遠称)。また、二つのもののうち、話し手、聞き手両者から遠い方。あちら。あっち。⇔こち。
- [初出の実例]「〈本〉安知(アチ)の山背山、〈末〉背山や背山」(出典:神楽歌(9C後)早歌)
- 「集(つど)ひたるものども、こち押し、あち押し、ひしめきあひたり」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一一)
あっ‐ちゃ【彼方】
- 〘 代名詞詞 〙 ( 「あちら(彼方)」の変化した語 ) 他称。話し手、聞き手両者から離れた方向などを指し示す、近世上方の語(遠称)。
- [初出の実例]「浜中はすっきりあっちゃ贔屓(びいき)なり」(出典:雑俳・銭ごま(1706))
あの‐かた【彼方】
- 〘 代名詞詞 〙 他称。話し手、聞き手両者から離れた人を指し示す(遠称)。上位者に用いる。〔日葡辞書(1603‐04)〕
- [初出の実例]「全体あの方は洋行なすった事があるのですかな」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二)
あっち‐ら【彼方】
- 〘 代名詞詞 〙 ( 「あちら(彼方)」の変化した語 ) 他称。話し手、聞き手両者から離れた方向などを指し示す(遠称)。
- [初出の実例]「歩めや歩め、歩まにゃならぬ、あっちらな、こっちらな」(出典:歌謡・松の葉(1703)三・馬方)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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