日本大百科全書(ニッポニカ) 「夫方居住婚」の意味・わかりやすい解説
夫方居住婚
おっとかたきょじゅうこん
婚姻後の居住規制の一つで、妻が夫の家に移り住む形式をいう。日本の嫁入り婚はこれに入る。日本の場合のように、夫の家とは夫の両親の家であることが多いが、そのほか夫の両親の家の近くや同じ村の中に新しく家を建ててそこに妻を迎える形もしばしばみられる。ただし、男が以前から両親の家から遠く離れた所に住み、結婚後、妻がそれまで夫が住んでいた家に入るような場合は、夫方居住とも新居住ともいえ、あるいは妻の実家が新婚の家に近いときには妻方居住ともいえ、これらの居住様式の厳密な区別はむずかしい。夫方居住のことを、子供がどこで生まれるかという観点から、父方居住ということもある。世界の諸社会で夫(父)方居住はもっとも多くとられている居住様式で、とくに父系社会ではよくみられる。その理由として、夫方居住だと夫は結婚後も自分の親族たちの近くに住み、密接な関係を保ち続けることができるからと考えられる。また、生まれる子供は父系社会では父の財産・地位を相続・継承し、父方の親族集団に所属するので、子は父の家、父方の親族の近くで生まれ育ったほうがなにかと有利である。しかし父系社会で夫方居住婚の場合、嫁入りした女性はよそ者としていろいろ抑圧されることが少なくない。他方、母系社会では比較的に妻方居住が多く夫方居住は少ないが、たとえばアフリカの農耕民アシャンティ人のように母系で夫方居住をとる場合、夫は他に住んでいる姉妹の息子に相続・継承を行い、子は母の実家に住む母の兄弟から相続・継承を受けることになり、複雑な問題が生じる。
[板橋作美]