日本大百科全書(ニッポニカ) 「よそ者」の意味・わかりやすい解説
よそ者
よそもの
stranger
もともと村落共同体の成員とは認められていない人をいった。村落共同体の成員は、その土地に生まれ育ち、しかも生活を共同で維持し防衛するために、仲間意識や一体感が強い。したがって、よその土地からきた者はよそ者としてはっきり区別され、警戒されたり、あるいは逆に歓迎されたりした。よそ者には2通りあって、一つは、よその土地から移住してくる者(来(きた)り者とよばれる)、つまり入婚、養子縁組、転住などによって入村した人と、もう一つは、よその土地からきても村内に居住しない人、たとえば行商人、職人、芸人などである。前者の場合、村内に新しく居住するのであるから、共同体の生活や秩序を乱すおそれと不安があると考えられ、そのために、よそ者は「村入り」の儀礼を必要とし、村人に酒食を供したり、有力者を仮親にたて、保証人になってもらったりして、成員の資格を得るようにしたのである。それでもよそ者は共同体の成員と同じように遇せられるとは限らず、差別されることが多かった。この傾向はいまでも、大都市の近郊都市においてすら残っていることがある。後者の場合、村内に居住するわけではないものの、よその土地の人であるから、警戒されないこともなかったが、村の外部からさまざまの知識や技術を教えてくれる人として、むしろ歓迎されることもあった。
都市の町内でも、よそ者を意識する、似たような傾向はあった。町内は生活を共同で維持し防衛するための秩序をもち、したがって、町内の仲間意識や一体感はやはり強く、移住しても簡単にその土地に生活する成員として認めてもらえるわけではなかった。だから、引っ越しそばに象徴されるように、よそ者は町内の住民に酒食を供したり、有力者に紹介の労を頼んだりして、町内に移住したのである。この名残(なごり)は、町内に引っ越しの挨拶(あいさつ)を兼ねてタオルや葉書などを供する慣習に認められる。もっとも、町内は村落とは違い、住民の職業は同一とは限らず、しかも、とくに近代以降においては、急速によそ者が多くなり、この慣習のもつ意味は早くに薄れた。今日、村落や都市の大きな変化とともに、よそ者の意識を生んだ母体は崩れてきているが、その母体は学校や会社などの集団に移行して、そこでの「われわれ集団」の意識がやはり強く、したがって、その集団の秩序が強固である分だけ、よそ者を区別する意識はいまだに存在すると考えられる。よそ者に対する無関心、不信、敵意、差別はさまざまな形で現れているからである。
[高橋勇悦]