感覚障害、認知症、意識障害がないのに、見たり聞いたり触ったりなど、一定の感覚路を介して知覚された対象が何であるかを認知できない状態をいう。通常、認知の障害が、個々の感覚様式に限定して現れる視覚失認、聴覚失認、触覚失認と、多くの感覚を介した情報を統合して認識する身体の空間像に現れる身体失認に分類される。
視覚失認は、主として後頭葉の障害のときみられ、そろばんを見てもそろばんとして認知できず、振って音をたてたり手で触れて初めてそろばんであることがわかる(物体失認)などが、その例である。そのほか、色覚に異常がないのに色紙を見ても色の名前がいえない(色彩失認)、一定の情況を描いた絵を見ても、細部はわかるが全体の意味が了解できない(同時失認)、知人の顔を見ても、だれであるかわからず性別すらわからない(相貌(そうぼう)失認)、絵を描かせると、半側は描かず視空間の半側にある対象を無視する(視空間失認)、などがある。聴覚失認では、音は聞こえるが音のいろいろな違いを認知できない。多くは両側側頭葉の障害による。触覚失認では、物に触ってもそれが何であるかわからないが、目で見れば認知できる。左右いずれかの側頭葉の病変によっておこる。
身体失認は、頭頂葉下部の病巣によって生じ、優位半球(普通は左であるが、左利きでは右のこともある)の障害では両側性に、劣位半球の障害では片側(対側)に現れる。両側性の身体失認では、手指の識別ができなくなったり、左右がわからなくなったりする。片側性のものでは、左半身を無視したり、左片麻痺(へんまひ)があってもそれを認めない(病態失認)などの症状がみられる。
[海老原進一郎]
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