奇貨居くべし(読み)キカオクベシ

デジタル大辞泉 「奇貨居くべし」の意味・読み・例文・類語

奇貨きかくべし

商人呂不韋りょふい人質になっていた秦の王子子楚しそを助けて、あとでうまく利用しようとしたという「史記呂不韋伝の故事から》珍しい品物は買っておけば、あとで大きな利益をあげる材料になるだろう。得がたい好機を逃さず利用しなければならない意にいう。
[補説]書名別項。→奇貨居くべし

きかおくべし【奇貨居くべし】[書名]

宮城谷昌光の長編歴史小説。秦の宰相となる呂不韋りょふい波乱生涯を描く。春風篇、火雲篇、黄河篇、飛翔篇、天命篇の全5部を平成9年(1997)から平成13年(2001)にかけて刊行

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精選版 日本国語大辞典 「奇貨居くべし」の意味・読み・例文・類語

きか【奇貨】 居(お)くべし

  1. ( 秦の相となった呂不韋(りょふい)が若くて商人だった頃、秦の太子安国君の子、子楚が趙に人質となって不自由な生活をしているのを見て、これをうまく利用しようと思って言ったという「史記‐呂不韋伝」の中の言葉、「此奇貨居」から出た語。珍しい品物だから、今買っておけば後で利益を得る材料となるだろうの意で ) 得難い機会だから、のがさずこれを利用しなければならない、好機を逸してはならない、の意にいう。
    1. [初出の実例]「至愚にして鉅富なる、是れ真に奇貨(〈注〉ヨキシロモノ)居く可き者なり」(出典:柳橋新誌(1874)〈成島柳北〉初)

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故事成語を知る辞典 「奇貨居くべし」の解説

奇貨居くべし

めったにないチャンスは、のがさず利用しなければならない、ということ。

[使用例] 図らず久しぶりででかけてきたゆゑ、これ奇貨おくべしと爪をとぎたて[坪内逍遥当世書生気質|1885~86]

[使用例] 女の打明けに対して、奇貨居くべしという気になって[三島由紀夫金閣寺|1956]

[由来] 「史記りょ伝」が伝える、豪商の呂不韋のことば。中国の戦国時代のこと、呂不韋は、ちょうという国で、不自由な生活をしているしん国の王族と出会いました。彼は、秦の王位継承者、あんこくくんの子でしたが、親から愛されず、人質に出されていたのです。このとき、呂不韋は、「奇貨居くべし(珍しい品物だから、買って置いておこう)」とつぶやいて、資金面から女性関係まで、何かと子楚の面倒をみてやります。さらに、大金を投じて、子楚の父、安国君のお気に入りの女性に取り入り、子どものいなかった彼女の口添えで、子楚を跡継ぎとすることに成功。やがて王となった安国君は、わずか一年で死去、子楚が王位に就くことになりました。その結果、呂不韋は宰相となって、秦国で大いに権力を振るったのでした。

[解説] ❶呂不韋の頭のよさと実行力が際立つエピソード。れっきとした王族をつかまえて商品扱いするあたりに、計算高い彼の性格がよく表れています。❷それだけに、冷徹な雰囲気がある故事成語。チャンスをのがさず、先を読んで行動する場合に広く使うことができますが、むやみに用いると、人間性を疑われてしまうかもしれません。❸実際、子楚の死後、呂不韋はその后と関係を持ち、最終的には子楚の子に憎まれて自殺へと追い込まれています。この子が、後に中国を統一する始皇帝です。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「奇貨居くべし」の意味・わかりやすい解説

奇貨居くべし
きかおくべし

珍奇なものは、目下の用はなくとも、他日を期して手元に置いておくのがよいとの意。

 中国、戦国時代の秦(しん)の丞相(じょうしょう)(大臣)呂不韋(りょふい)が、若年にして商売に従事していたとき、秦の太子安国君の子の子楚(しそ)が趙(ちょう)の国の人質となり冷遇されているのをみて、子楚を商品に見立てていったことば。『史記』「呂不韋伝」が伝える故事。呂不韋は子楚に近づいて金銭と美姫(びき)を献上し、のち秦に帰って荘襄(しょうじょう)王となった子楚により丞相に取り立てられ、権勢を振るった。後世、これが転じて、「好機逸すべからず」の意にも用いられる。

[田所義行]

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