「どうじんざっし」ともいう。無名の作家、または新進作家が、仲間同士で資金を持ち寄り、原稿の執筆、編集、発行などを自ら行う雑誌。篤志家の援助によったり、出版社が版元となって、中堅の作家・評論家たちによって発行されたりする場合もある。普通は発表の舞台に恵まれない新人が、ここを文学精進の場として作品を発表し、文壇への登場の機会をつかもうとした。また、文芸以外にも、目的を同じくする同人たちによる学術研究、趣味娯楽の同人雑誌もある。
わが国最初の学術総合誌『明六(めいろく)雑誌』は、1873年(明治6)アメリカから帰った森有礼(ありのり)が、翌年、啓蒙(けいもう)思想家たちと明六社を組織し、その機関誌として発刊したが、同人雑誌の先駆ともみられる性格をもっていた。これを受け継いだ80年創刊の『六合(りくごう)雑誌』は東京基督(キリスト)教青年会の機関誌で、同人誌ではない。最初の文芸同人誌は85年、尾崎紅葉(こうよう)らが創刊した『我楽多(がらくた)文庫』で、文章の洗練、物語の技法などを学ぶ目的で結成された同好会、硯友社(けんゆうしゃ)の機関誌だが、初め同人たちの回覧雑誌で始まり、やがて明治の新風俗に接近して有力新人の集団と目され、印刷公刊に切り換え、文芸雑誌に変貌(へんぼう)した。明治20年代浪漫(ろうまん)主義文学の中心となった『文学界』は北村透谷(とうこく)、島崎藤村(とうそん)らが創刊、のち同人に馬場孤蝶(こちょう)、上田敏(びん)らが加わり、樋口一葉(ひぐちいちよう)の『たけくらべ』などがここに発表された。以後日本近代文学、現代文学の転換期にはさまざまな同人雑誌に画期的な小説や評論が発表され、歴史を変えるような大きな役割を果たした。おもなものに、上記のほかに明治時代創刊の雑誌には『スバル』『新思潮』『白樺(しらかば)』『青鞜(せいとう)』、大正時代には『奇蹟(きせき)』『近代思想』『人間』『種蒔(ま)く人』『文芸時代』『驢馬(ろば)』、昭和に入って『詩と詩論』『文学界』『四季』『日本浪曼派(ろうまんは)』『人民文庫』『現代文学』などがあり、第二次世界大戦後には『近代文学』『文学者』『VIKING』『声』『白描(はくびょう)』『犀(さい)』『季刊芸術』『人間として』『終末から』『文体』『使者』などがある。大正末に1000誌を超え、「空前絶後の同人雑誌時代」といわれたが、戦後も文芸関係に限っても毎年1000種を超える同人雑誌が発行されている。また近年ではインターネットを利用したネット上の「同人雑誌」も多数存在しており、今後の文学にどのような影響を与えるのか、予想することの難しい状況が現出している。
[小田切進]
『『全国同人雑誌一覧』(日本文芸家協会編『文芸年鑑』各年版所収・新潮社)』
思想や心情の共通するもの同士が作品発表の場として経費を分担しあって執筆,編集する雑誌。書店で販売されるばあいでも営利を主目的とするのでなく,同人の作品の発表,さかのぼっては創作のための修練を主眼としている。また多人数を会員とする団体の機関誌とちがって,友情にもとづく仲間同士の協力によって刊行が維持されるので,小人数のグループのなかでもさらに執筆,編集,経営の力のある特定メンバーの関心と負担とによって誌齢が左右されることが多い。同人雑誌に掲載した作品が営利出版社の編集者に注目されたり,文学賞の候補とされたりして専業の作家,評論家となっていくというケースが日本では多いので,とくに小説や評論の自己訓練の場として同人雑誌が注目される。ただし,このほかにも一方では中央文壇と無縁に志操の場として刊行されている雑誌があり,他方では趣味の同好として長くつづいている雑誌がある。とくに短歌や俳句にはおびただしい数の結社がそれぞれに会誌を出しつづけているが,これらの雑誌は職業作家をめざすことがないのも一因となって同人雑誌と呼ばれることはない。その反対に,近年,学生や青少年のあいだで盛んに作られているSFや漫画のグループ誌のなかには,同人雑誌に近いものがある。
日本の評論雑誌の祖というべき《明六雑誌》(1874創刊)は,明治初年の啓蒙主義的な学者・思想家たちの講演記録集だったから,同人雑誌の源をそこにみることもできる。小説発表の場としての同人雑誌は,尾崎紅葉,山田美妙らの《我楽多(がらくた)文庫》(1885創刊,当初は筆写回覧本)が最初である。文芸,社会思想がたがいに競い合った明治末年ごろから青年グループによる雑誌の刊行がさかんとなり,昭和初年には〈同人雑誌の全盛期〉(高見順)となった。第2次大戦の衰微期をはさんで保高(やすたか)徳蔵・みさ子がつづけた《文芸首都》(1933-69)は長期にわたる新人発掘の努力で名高い。なお,英米でリトル・マガジンと呼ばれる文芸雑誌の伝統は,非営利という特徴で同人雑誌と共通しているが,既成の作家や評論家の芸術主張を主にしていて,若手の習作などの場ではない。
執筆者:荒瀬 豊
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…日本の文学雑誌の最初というべき尾崎紅葉らの《我楽多文庫(がらくたぶんこ)》は,学生時代の彼が小説好きの友人たちと手書き作品を編んだ回覧雑誌として出発した。また,二つの世界大戦をはさむ時代の日本に,〈かつてない同人雑誌の盛行〉(高見順)がみられたことは,社会の変動期に青年層をはじめとする表現者たちの発表の場として自主刊行の雑誌がふさわしかったという事情によるものだった。また明治中期から数度の盛期を画しつつ増大を続けている短歌,俳句の結社同好誌は,さまざまの趣味雑誌が会員の関心と密接して長命を続けているその先駆といえるだろう。…
※「同人雑誌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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