婿(読み)ムコ

デジタル大辞泉 「婿」の意味・読み・例文・類語

むこ【婿/×聟/×壻】

結婚して妻の家系に入った男性。「―を取る」⇔
娘の夫。娘むこ。女婿じょせい。⇔
結婚したばかりの男性。また、結婚式でこれから婿になる男性。新郎。はなむこ。⇔
[類語]女婿入り婿婿養子娘婿花婿新郎

せい【婿】[漢字項目]

常用漢字] [音]セイ(漢) [訓]むこ
セイ〉むこ。「女婿令婿
〈むこ〉「婿養子花婿娘婿
[補説]「壻」は異体字、「聟」は俗字。

もこ【婿】

相手。仲間。
「ちはやぶる宇治の渡りにさを取りに速けむ人しわが―に来む」〈・中・歌謡〉
むこ(婿)」に同じ。〈新撰字鏡

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「婿」の意味・読み・例文・類語

むこ【婿・聟・壻】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 娘の夫として家にむかえる男。また、娘の夫。婿子。もこ。
    1. [初出の実例]「伯孫、女(むすめ)、児(をのここ)(うまはり)せりと聞きて、往きて聟(ムこ)の家を賀(よろこ)びて」(出典日本書紀(720)雄略九年七月(前田本訓))
    2. 「家ゆすりてとりたるむこの来ずなりぬる、いとすさまじ」(出典:能因本枕(10C終)二二)
  3. 女性からみて、結婚相手の男。夫。
    1. [初出の実例]「あれが妹の所へ聟(ムコ)の来た時と」(出典:滑稽本浮世床(1813‐23)初)

もこ【婿・聟】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 仲間・敵など、自分に相対する人。相手。
    1. [初出の実例]「ちはやぶる 宇治の渡りに 棹取りに 速けむ人し わが毛古(モコ)に来む」(出典:古事記(712)中・歌謡)
  3. ( 配偶者としての相手の意から ) 婿(むこ)。かたき。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕

婿の補助注記

語源について「むこ(婿)」の母音が交替したもの、「むく(向)」と同語源、「もとこ(許処)」の意、「もころ(如)」と同語源などの説がある。挙例の「古事記」の「毛」「古」がともに上代特殊仮名遣いの甲類なので、「眉」のマユとマヨなどにみられるウ列とオ列甲類の母音交替を参照して、前二説が有力と言われている。後二説の用例はコが乙類なので、モも乙類で仮名遣いが合わない。


せい【婿・壻】

  1. 〘 名詞 〙 むこ。〔礼記‐曾子問〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「婿」の意味・わかりやすい解説

婿
むこ

聟とも書く。娘の配偶者(夫)のことであるが、とくに「家」相続者としての娘に迎えた「夫」をいい、「家」制度のもとでは娘の親と養子縁組を伴うので、いわゆる「入婿・婿養子」をさした。平安貴族社会では「招婿(しょうぜい)婚」、つまり娘の家に「婿」を迎え入れる形で結婚が成立し、その後も「婚舎」は女方にあって、子女の養育もそこで行われた。婿の地位もそれに相応し、いわば「客人」的扱いで、高貴身分の才人はとくに優遇もされたらしい。しかし中世武家社会では「嫁入婚」方式が一般化し、婿は、「家」継承のため男子を欠く「家」に限って迎え入れられる形になって、著しくその境遇が変わり、ほとんど「婿養子」の形に限られることにもなった。一般農村にもこうした形は広く残り、「婿=婿養子」はやがて「村の正員=家長」となる身分ではあるが、「家族」としても「村人」としても多く他村からの「新入り」であったから、おのずから従属的地位に置かれ、またいろいろの試練も受けねばならなかった。「米糠(こぬか)三合あったら婿にゆくな」とか「婿三代続けば家が栄える」といった俚諺(りげん)は、かつての婿の境涯を示している。入婿は家でも多く忍苦の働きを強いられたが、「村人」としても「他村者(よそもの)」ゆえいろいろの試練を課せられた。若者仲間は未婚者集団だが、とくに入婿は3年間は入団して「下働き」にあたるとか、過分の入会料を提供するというのは一般の風習であったし、また「婿いじめ」という風習も広くみられ、結婚当初は「村行事」のなかでも、伝統的習俗のままいろいろの試練にあった。とくに「樽(たる)入れ」などという「婿入り」に伴う脅迫的行事さえ広くみられ、一種の呪術(じゅじゅつ)的儀礼ながら事実は「婿いじめ」の意味をもって行われた。しかし家族制度の改変と一般風潮の変化で「入婿」の形も実態も一変したが、なお「家」継承の願いは容易に消失しそうもないので、いわゆる「婿」の境遇は実態上まだ存続するであろう。

[竹内利美]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

普及版 字通 「婿」の読み・字形・画数・意味

婿
常用漢字 12画

(異体字)壻
12画

[字音] セイ
[字訓] むこ・わかもの

[説文解字]

[字形] 形声
声符は胥(しよ)。〔説文〕一上に壻を正字とし、「夫なり」と訓し、重文として婿を録する。〔方言、三〕に、東斉では壻を倩(せい)の音でよむという。倩に美士の意がある。俗に聟の字に作るが、造字の由来を知りがたい。

[訓義]
1. むこ、女の夫、女から夫をいう。
2. わかもの。
3. とも、同門の友。

[古辞書の訓]
名義抄〕壻 ムコ 〔字鏡集〕婿・壻 ムコ・トツグ/聟 ムコ

[語系]
壻(婿・聟)sye、胥・siaは声近く、胥・とは人の才智有るものをいう。倩tsiengも士の美称。みな同系の語である。

[熟語]
婿甥
[下接語]
愛婿・花婿・姉婿・女婿・贅婿・夫婿・僚婿・令婿

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「婿」の意味・わかりやすい解説

婿 (むこ)

娘の夫,とくに婚入してきた娘の夫をさす。新郎の意もある。婚姻当事者が相互に婿であり嫁であるのだが,婿は〈家〉制度を背景として考えられ,家の存続を目的とした相続養子として,とくに娘婿養子(入婿)を意味することが多い。婚姻により娘の両親と娘の夫は,しゅうと・しゅうとめ(舅・姑)と親子関係をむすぶが,入婿は養親と婿養子としての親子関係であり,同じく娘の夫でありながら娘の両親との親疎,緊張関係は嫁入婚の場合と同じではない。日本では嫁を出す側は嫁をもらう側とくらべ家格が同等あるいは劣位にあることが多く,夫は妻を介して気やすく妻方親族と親密な関係をもった。これに対して入婿の地位は低く〈米糠(こぬか)3合あれば養子に行くな〉ということわざが示すように忍従の生活を余儀なくされるのが一般であった。これは入婿を出す側は劣位にあり,また入婿は生家での成員権が失われており,さらに養家内における親子関係(妻と妻の両親)と夫婦関係(自己と妻)との間の拮抗と関連するものであったと思われる。入婿選定に際し日本本土では出自規制をもたないのが特徴である。
婚姻
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の婿の言及

【親子】より

…父母と子の関係を指すが,生みの親と子の血縁的な関係だけではなく,養親と養子,親分と子分,親方と子方の関係のように,法制上,習俗上親子関係が擬制される関係(擬制的親族関係)を指しても用いられる。
[親子と血縁]
 親子関係では,とくに血のつながりという自然的要素が強調されるが,いずれの社会でも,血のつながりがあればただちに社会的にも親子関係が発生するとされているわけではない。このことは早くからB.マリノフスキーら社会人類学者によって指摘されている。…

【馬鹿聟】より

…昔話。愚かな聟の振舞いを笑う話。聟はいわゆる入聟とは限らず,結婚相手がある男の総称。聟が嫁の家に行って風俗,習慣,経験の違いから失敗をくりかえすことを笑いの対象にする話型が一般的。例えば,聟が初めての訪問で挨拶の言葉や食事の作法や食物の名を知らずに,嫁の家で愚行をさらけ出す。嫁が懸命に加勢するが,かえって聟の非常識が露見して結婚は不成立に終わる。しかし,一方で嫁が協力者である場合,失敗が全部有効に働いて,聟のすぐれた資質をあらわす結果になり,長者の跡継ぎになる話もある。…

【婿いじめ】より

…婚姻儀礼の過程で婿に加えられる悪戯。この悪戯は婚礼後の年中行事の中でも行われ,婿のみでなく嫁にも加える地域がある。…

【婿入婚】より

…婚姻生活の場を妻方(嫁方)におく婚姻。招婿婚,妻訪婚,妻処婚などともいう。一般に日本の基本的婚姻形態として,夫妻の居住方式や初婿入りなどの婚姻成立儀礼の行われ方から,婿入婚と嫁入婚に分類されているが,婿入り,嫁入りのような民俗語彙をもとにしてのこの分類は,必ずしもその意味が合意されているわけではなく,ことに婿入婚に関してはあいまいである。…

※「婿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android