家庭医学館 「子どものむし歯」の解説
こどものむしば【子どものむし歯 Dental Caries】
[どんな病気か]
[原因]
[症状]
◎乳歯からの予防がたいせつ
[治療]
[予防]
[どんな病気か]
むし歯(う蝕(しょく))は、ストレプトコッカス・ミュータンスなどの菌が原因で、歯がとけてくる病気です。
子どものむし歯は減少しつつあり、むし歯の程度も軽くなりつつあるとはいえ、1歳児で全体の約10%、2歳児で約40%、12歳になると70%以上の子どもにむし歯がみられます。
子どもは、生後6か月から乳歯(にゅうし)が生え始め、2年半から3年で生えそろいます(図「乳歯の萌出順序」)。この乳歯がむし歯にかかりやすいのは、2歳から5、6歳にかけてといわれています。
一方、永久歯(えいきゅうし)は、6歳ころに生え始め、親しらずを除くと、15歳ころに生えそろいます。この永久歯がむし歯にかかりやすいのは、12歳から20歳にかけてです。
子どものむし歯は、①進行が速く、約1年で相当深くまで進んでしまう、②同時にたくさんの歯がむし歯になり、また、歯の側面にむし歯ができると、隣りあっている歯もおかされやすい、③自覚症状がはっきりせず、どの歯が痛むのか特定しにくい、④子どもがいやがるので治療がむずかしい、といった特徴があります。
[原因]
乳歯も永久歯も、生えて間もない時期にむし歯が発生しやすいのです。その理由は、歯が生えて間もない時期には、唾液(だえき)によるエナメル質の保護・強化作用がまだ十分にゆきとどいていないため、むし歯に対する抵抗力が弱いからです。
唾液は、ものをかんだり、しゃべったりするときの潤滑油(じゅんかつゆ)の役目をはたすとともに、歯の表面について歯を保護しています。しかし、唾液の効果がエナメル質におよぶまでには、何年もの時間が必要で、生えて間もない乳歯や永久歯のエナメル質は、十分に保護・強化されていません。そのため、2~5、6歳の乳歯や、11~19歳までの永久歯では、むし歯になりやすいのです。さらに、子どもは、糖分が多く、歯に付着しやすいおやつ類を好むこともあって、溝の形が複雑な乳臼歯(にゅうきゅうし)には、とくに糖分や歯垢(しこう)(プラーク)がたまりやすくなります。
そのほか、幼児では、自分で歯みがきが十分にできないことも、むし歯が発生する原因となります。
また、むし歯の原因となる細菌(う蝕病原菌(しょくびょうげんきん))は、生まれたときには、口の中には存在しません。乳歯が生え始めるころからみられるようになりますが、これは、お母さんが口うつしで食べ物を与えるなどして、お母さんの口から子どもの口にうつる場合があるからです。そのため、お母さんの口腔(こうくう)ケアも、子どものむし歯の予防に関係してきます。
[症状]
乳歯は合計20本、永久歯は全部で32本ありますが、このなかでも、とくにむし歯になりやすい歯があります。乳歯では、上顎(じょうがく)の前歯(ぜんし)と上・下顎(かがく)の臼歯にむし歯ができやすいといわれています。永久歯では、上・下顎の大臼歯(だいきゅうし)と上顎の前歯がむし歯にかかりやすい部位です。
むし歯ができると、歯がしみたり、歯が痛んだりします。そのほか、食事が食べにくい、かみにくい、しゃべりにくいなどの弊害もおこします。
むし歯の進行の度合いによって、C0、C1、C2、C3、C4の5段階に分けられます。
[治療]
子どものむし歯は、治療をいやがるなどの理由でむずかしいことが多いものです。
ただし、乳歯がむし歯になった場合でも、放置すると、後から生える永久歯にも悪影響をおよぼしますので、早めに治療を受けるようにしてください。
治療は、むし歯の進行状態に合わせて、歯の痛みをとったり、歯冠修復(しかんしゅうふく)や充填(じゅうてん)を行ないます。また、歯垢の除去、歯みがき指導なども合わせて行なわれることがあります。
正しい歯みがきをすることは、たいせつです。長年にわたって、あやまった歯みがきを続けると、歯ブラシによる慢性的な作用で、歯ぐきに近い部分がすり減って、楔状(くさびじょう)の欠損ができます。この摩耗症(まもうしょう)(磨耗症)は、むし歯とはちがい、歯質(ししつ)が失われるもので、知覚過敏(ちかくかびん)の原因にもなります。摩耗症(磨耗症)では、知覚過敏やむし歯に準じた治療が必要になります。歯ブラシの影響だけでなく、かみ合わせを摩耗症(磨耗症)の原因とする意見もありますが、ともかく、正しい歯みがきがたいせつになります。
[予防]
食事やおやつなどを食べた後は、唾液のpH(水素イオン濃度)が低下します。食後2~3分でpH4~5くらいになるといわれています。つまり、ものを食べるたびに酸性の唾液がつくられることになるわけです。
一般に、歯は酸におかされやすいのですが、永久歯のエナメル質はpH5.5~5.7でとけるといわれています。乳歯や生えたばかりの永久歯(幼若永久歯(ようじゃくえいきゅうし))のエナメル質、および永久歯の象牙質(ぞうげしつ)はpH5.7~6.2でとけるとされています。つまり、乳歯や幼若永久歯は、それほど強い酸性度でなくてもとけてしまうのです。
食後40分くらいたつと、酸性になった口の中が中性にもどるとされていますが、これには個人差があります。よく唾液の出る人では唾液の緩衝効果によって早く中性にもどりますが、唾液の少ない人では時間がかかることになります。
こうしたことから、生えて間もない歯で、飲食の回数が多く、唾液の量が少ない人ほどむし歯になりやすいということになります。したがって、子どもにも毎食後、必ず歯をみがく習慣をつけさせることがたいせつです。
歯の生え始めたころから、歯ブラシが持てるようになるまでは、子どもを膝枕(ひざまくら)で寝かせ、お母さんが歯をみがいてあげましょう。このとき、歯みがき剤は使わないようにします。子ども用の歯ブラシが合わないようならば、ガーゼを指に巻き付けるか綿棒(めんぼう)を使って、歯をみがきます。
歯ブラシが持てるようになったら、おとなと一緒に歯みがきするようにしましょう。これは、歯みがきを習慣づけるためと、事故をおこさないようにするためです。
小学校に入るまでには、ひとりで歯みがきできるようにしましょう。ただし、子どもはまだ自分では正しく歯をみがけませんから、まず本人にみがかせた後、お母さんが前歯の裏側などをていねいにみがいて仕上げみがきをしてあげる必要があります。
また、おやつなどの間食をとりすぎないよう、時間や回数をきちんと決めることもたいせつです。おやつは、糖分の少ないものを食べさせるようにしましょう。
歯の表面にフッ素を塗って、歯が酸におかされにくくするフッ素療法や、奥歯の溝をプラスチック樹脂で埋めるフィッシャー・シーラントというむし歯の予防法もあります。詳しくは歯科医によく相談してみてください。最近では、小児歯科という子ども専門の歯科医も多く、乳児期からのむし歯予防に力をいれています。