家庭医学館 「子どもの扁桃の手術」の解説
こどものへんとうのしゅじゅつあでのいどせつじょじゅつこうがいへんとうてきしゅつじゅつ【子どもの扁桃の手術(アデノイド切除術/口蓋扁桃摘出術)】
咽頭扁桃(いんとうへんとう)(アデノイド)と口蓋扁桃(こうがいへんとう)の手術は、子どもの耳鼻咽喉科(じびいんこうか)領域において、もっともふつうに行なわれるものです。
これらの手術は、それぞれが単独で行なわれることもありますが、睡眠時無呼吸(睡眠時無呼吸症候群(コラム「子どもの睡眠時無呼吸症候群」))などの場合には、発症に、アデノイド増殖症(ぞうしょくしょう)と口蓋扁桃肥大(こうがいへんとうひだい)の両方が関係していることが多いので、これら2つの手術が同時に行なわれることも少なくありません。
子どもの手術は、ふつう、入院して全身麻酔(ぜんしんますい)をかけて眠った状態で行なわれます。
したがって、手術中に子どもが痛みや恐怖を感じたりすることはありません。もちろん、全身麻酔をかけ、からだにメスが入るのですから、まったく危険がないとはいえませんが、特異体質とか、予想もできないことがおこるとか、よほど特殊な状況にならないかぎり、安全に行なえる手術と考えてかまわないと思います。
◎手術の実際
手術の際は、口をあけて固定する開口器という器具を口にかけ、口の中から手術を行ないます。そのため、顔やくびの表面に傷がつくことはありません。
アデノイド切除術では、専用の器械でアデノイドを削り取ります。口蓋扁桃摘出術では、被膜(ひまく)に包まれた扁桃を被膜ごと摘出します。手術時間は、アデノイド切除術で10分程度、口蓋扁桃摘出術は、両側で20分程度です。
睡眠時無呼吸に対する口蓋扁桃摘出術の場合、空気や食べ物の通り道を確保するため、片方の口蓋扁桃だけを摘出すればよいという考え方もありますが、残した口蓋扁桃が後々さらに大きくなって、睡眠時無呼吸が再発してくることも少なくありません。
したがって、最初の手術で両方の口蓋扁桃を摘出するのがふつうです。
◎手術後の治療
手術後は、感染予防のための抗生物質の点滴(てんてき)を1、2日行ないます。その後も、しばらくは抗生物質の内服が処方されますが、口の中の手術では、完全な清潔を保つことがむずかしく、手術後1、2日は37~38℃程度の発熱が続くことがあります。
手術後の痛みは、アデノイドの手術では軽くてすむことが多いのですが、口蓋扁桃の手術では、食べ物の通り道に傷あとができることになりますので、食べ物などを飲み込むときの痛みが必ずおこります。
痛み止めの薬剤を使用しても、薬で痛みを完全にコントロールすることはできませんので、ある程度は、子どもに痛みをがまんしてもらうことが必要になります。
手術の直後は、麻酔の影響もあって、感情がストレートに出てきますので、泣いたり、騒いだりすることも多くみられますが、手術の翌日には、落ちつきをとりもどしていることが多いようです。
手術の翌日には、やわらかめの食事から始め、2、3日以内には、ふつうの食事がとれるようになります。
もう1つ、手術に際して問題となる可能性のあるものに、術後の傷あとからおこる出血があります。
手術の最後には、出血が止まっていることをきちんと確認することは当然ですが、まれに手術当日、あるいは数日後に傷あとから出血が生じることがあるといわれています。
すぐに気づいて止血処置を行なえば問題ないのですが、知らないうちに、子どもが出血した血液を飲み込んでいて、気づいたときには、すでにかなりの量の出血が生じていたというようなこともあります。この場合、輸血が必要となる可能性も、ごくまれにあることは否定できません。
◎退院後の経過と注意
手術後、食事がある程度ふつうにとれて、発熱や出血がなければ、術後4~7日で退院となります。保育園、幼稚園、小学校などは、手術後7~10日ごろから通い始めてかまいませんが、退院後1週間程度は、激しい運動は避けさせなければなりません。
また、入浴は、退院後にシャワー程度から始めるようにします。
退院後の食事も、辛いものや酸っぱいものは、のどの傷を刺激して痛みを感じることがありますので、やや薄味の食事にしたほうがよいでしょう。
かたいものをかんだり、大きなかたまりを丸飲みしたりすることは避けさせ、よくかんで食べるように指導しましょう。
手術後、約1か月で、手術の傷あとは正常な粘膜におおわれて治癒(ちゆ)します。
アデノイドや口蓋扁桃といったリンパ組織は、感染防御の役割をはたしていることから、手術をしてこれらを切除すると、感染に対する抵抗力が低下して感染症にかかりやすくなるのではないかということが問題になります。しかし、鼻やのどにあるほかのリンパ組織が、切除したアデノイドや口蓋扁桃の機能を代償してくれますので、手術後に感染がおこりやすくなるということはありません。
免疫機能(めんえききのう)に問題がある場合、扁桃の手術は避けたほうがよいと考えられます。また、重症のぜんそくやけいれんの既往(きおう)があったり、血友病(けつゆうびょう)など出血傾向のある疾患を合併している子どもでは、麻酔や手術のリスクが増すので、手術の適否に関して、小児科医や麻酔科医とあらかじめよく相談する必要があります。なお、ある程度の理解力がある年齢(3~4歳以上)の子どもに対しては、「しばらく病院に泊まって、のどの悪い部分をとる」程度の説明は行なうべきと考えられます。