アデノイド増殖症(読み)あでのいどぞうしょくしょうせんようぞうしょくしょうあでのいどいんとうへんとうひだいしょう(英語表記)Adenoid vegetation

家庭医学館 「アデノイド増殖症」の解説

あでのいどぞうしょくしょうせんようぞうしょくしょうあでのいどいんとうへんとうひだいしょう【アデノイド増殖症(腺様増殖症/アデノイド/咽頭扁桃肥大症) Adenoid】

◎3~6歳におこりやすい
[どんな病気か]
 鼻のいちばん奥の突きあたりの部分、上咽頭(じょういんとう)と呼ばれる部位にあるリンパ組織のかたまりをアデノイド咽頭扁桃(いんとうへんとう))といいます。口のほうから見た場合、のどの突きあたりの上方軟口蓋(なんこうがい)(いわゆる「ノドチンコ」)の裏側になるので、口蓋扁桃のように簡単に目で見て確認することはできません。
 このアデノイドがいろいろな原因で大きくなり、耳や鼻のさまざまな症状をひきおこす場合を、アデノイド増殖症といいます。
 アデノイドは、3~6歳ごろに生理的な増殖・肥大の時期をむかえ、その後、徐々に小さくなり、思春期のころには、ほとんど痕跡(こんせき)程度になります。
 したがってアデノイド増殖症は、子どもに特有の病気といえます。アデノイドの大きい子は、口蓋扁桃肥大をともなうことが多いようです。
[原因]
 アデノイドが生理的に増殖・肥大する時期や程度は個人差もあり、何が原因で病的なまでに大きくなるのかは、はっきりしません。
 ただ、アデノイドはリンパ組織のかたまりで、感染防御の役割をはたしているので、炎症をくり返すことで、より大きくなる傾向はあるようです。
 また、生まれつきの体質が関係しているともいわれています。
[症状]
 アデノイドの大きなかたまりがあるために、鼻の空気の通り道が狭くなり、鼻づまり、閉鼻声(へいびせい)、口呼吸、いびきなどがおこります。
 ひどいときには、眠っている間に呼吸が一時的にとまる睡眠時無呼吸(コラム「子どもの睡眠時無呼吸症候群」)がおこることもあります。
 無呼吸には至らない場合でも、睡眠が浅くなり、睡眠中に激しい体動を生じたり、夜驚症(やきょうしょう)、夜尿症(やにょうしょう)の原因となったりすることがあります。
 夜に十分な睡眠がとれないと、朝の寝起きが悪くなったり、昼間もボーッとして集中力が低下したりすることが考えられます。
 乳児期には、とくに鼻呼吸が重要なので、アデノイド増殖症による鼻づまりが重篤(じゅうとく)な呼吸困難を生じさせ、哺乳(ほにゅう)の際に息苦しくなり、十分にミルクを飲めなくなる哺乳障害・栄養障害の原因となります。
●合併症
 重症の呼吸障害が長期間続くと、心臓に負担がかかり、肺高血圧症や心不全(しんふぜん)などの危険な合併症を生じることもあります。
 また、鼻汁(びじゅう)の流れを妨げて、慢性副鼻腔炎(まんせいふくびくうえん)(「子どもの慢性副鼻腔炎」)をひきおこしたり、その症状の改善を遅らせたりします。
 さらに、症状が長く続くうちに、口をポカンとあけ、舌を突き出したしまりのない特有の顔つき(アデノイド顔貌(がんぼう))や漏斗胸(ろうときょう)、鳩胸(はとむね)などの胸郭(きょうかく)の変形をきたすこともあります。つねに口をあけているために、歯並びが悪くなるともいわれています。
 一方、アデノイドのある上咽頭には、耳と鼻の奥をつなぎ、中耳腔(ちゅうじくう)の空気の圧力の調節を行なっている耳管(じかん)という管が開口していて、肥大したアデノイドがこの耳管を圧迫することでその機能を妨げ、滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)(「子どもの滲出性中耳炎」)をおこすことも多いものです。滲出性中耳炎になれば、たまった水が、音を伝えるのを妨げて難聴(なんちょう)が生じたり、急性中耳炎をくり返したりします。
[検査と診断]
 症状から推測できることが多いのですが、診断の確定のため、顔の側面からのX線撮影を行ないます。このX線検査で、アデノイドの増殖の程度と鼻の空気の通り道の狭窄(きょうさく)の度合いを確認できます。
 ファイバースコープを鼻から入れて、アデノイドの状態を直接、観察することもできますが、多少の痛みと恐怖感があるので、子どもには、あまり積極的には行なわれません。
手術でアデノイドを切除
[治療]
 急性の炎症で、アデノイドが一時的に腫(は)れているような場合には、炎症を抑える薬の服用や、血管収縮作用のある薬の点鼻(てんび)で、症状を軽減することも可能です。
 しかし、ふつう年齢とともにアデノイドが生理的増殖・肥大を生じて症状が現われてくるので、薬による治療は効果がない場合が多く、アデノイドを切除する手術が必要となります。
 手術はふつう、アデノイドが生理的増殖・肥大を生じる3~6歳ごろに行なわれます。しかし近年、それ以下の年齢でアデノイド症状を生じる子どもが増加しており、この場合は、アデノイドが自然に萎縮(いしゅく)し、症状が軽快するまでにかなり長い年月を要することになるので、むしろ積極的に手術を行なうべきと考えられます。この年少期のアデノイド手術は、小児専門の病院で行なわれることが多いようです。
[予防]
 アデノイドは生理的な増殖・肥大によって症状を生じるので、確実な予防法はありません。
 しかし、感染をくり返すとアデノイドの増殖を助長すると考えられるので、かぜで鼻水が出ているときは、しっかり鼻をかむ、必要があれば耳鼻咽喉科(じびいんこうか)で鼻の掃除をしてもらうなど、鼻を清潔に保つことを心がけてください。
 また、耳の聞こえ、鼻づまりなどのアデノイド増殖症に関連した症状は、ちょっと関心をもてば比較的簡単に発見できるにもかかわらず、症状が高度になるまで見逃されていることがありますし、症状に気づいていても、そのまま放置されてしまうことが少なくありません。子どものこれらの症状に十分注意を払い、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「アデノイド増殖症」の解説

アデノイド増殖症
アデノイドぞうしょくしょう
Adenoid vegetation
(のどの病気)

どんな病気か

 咽頭(いんとう)(のど)には扁桃(へんとう)と呼ばれるリンパ組織の集まったものがあり、外界から細菌やウイルスが体に侵入しようとするのを防御する役割を果たしています。口蓋垂(こうがいすい)(のどちんこ)の横に左右一対ある口蓋扁桃(こうがいへんとう)、鼻腔の奥にある咽頭扁桃(アデノイド)が代表的な扁桃組織です(図10)。

 アデノイドは3歳ごろから増大し始め、6歳ごろに最も大きくなりますが、そのあとは次第に萎縮(いしゅく)します。通常はアデノイドの肥大は病的な意味をもたないのですが、時に肥大に伴ってさまざまな症状の現れることがあり、アデノイド増殖症と呼ばれています。

症状の現れ方

 以下のような症状が、主に幼小児期にみられます。

①鼻の症状

 鼻腔と咽頭の間が閉塞(へいそく)されることによって、鼻づまり、いびきが大きい、などの症状が現れます。乳児では哺乳がうまくできなくなることもあります。口で呼吸するためにしまりのない顔つきになりますが、これはアデノイド顔貌と呼ばれています。

②耳の症状

 難聴になることもあります。中耳と咽頭は耳管という管でつながっているため、アデノイドの肥大で滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)になりやすくなります。

③全身症状

 口蓋扁桃やアデノイドの肥大が原因で夜間の呼吸が妨げられ、睡眠時無呼吸症候群(すいみんじむこきゅうしょうこうぐん)の原因にもなります。そして、昼間には注意力散漫、行動に落ち着きがない、などの症状も現れます。

検査と診断

 鼻からのファイバースコープ検査などにより、診断は比較的容易です。X線検査も有用です。まれですが、腫瘍(しゅよう)が疑われる場合には組織を一部とって検査をすることもあります。

治療の方法

 アデノイドは年齢とともに萎縮するので、先に述べた諸症状が軽度の場合には積極的な治療はしませんが、症状の強い場合にはアデノイド切除術を行います。手術は全身麻酔をかけて口のなかから行うので、外から傷が見えることはありません。

病気に気づいたらどうする

 症状が多様であるため、原因がアデノイド増殖症と気づかないことも少なくありません。疑わしい症状があれば、耳鼻咽喉科を受診するようにしてください。

一宮 一成


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアデノイド増殖症の言及

【鼻炎】より

…慢性鼻炎には慢性副鼻腔炎が合併することも多い。小児では,アデノイドが大きくなっていること(アデノイド増殖症)も慢性鼻炎の原因となる。治療としては,粘膜腫張をとる消炎酵素剤や抗ヒスタミン剤を内服して,鼻腔の処置(ネブライザーによる)を行う。…

※「アデノイド増殖症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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