先天的な病気などで子宮がない女性から事前に卵子を採取し、体外受精させて凍結保存した後、第三者から提供された子宮の移植を受けて出産を図る医療。出産は帝王切開になる。現在の臓器移植法では、死者からの子宮の提供は認められていない。国内で実施する場合、提供者は母親などの親族が想定されている。日本医学会の検討委員会によると、海外では2021年3月時点で16カ国で実施され、40人の赤ちゃんが生まれた。
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生まれつき子宮がないか、がん治療などのために子宮を摘出して失ったか、あるいは子宮があっても機能しない女性が子を産めるようにするために、ほかの女性から子宮を提供してもらい移植する、新興の先端医療。生きている近親者や知人から提供を受ける場合と、見知らぬ脳死の女性から提供を受ける場合がある。
子宮移植で子をもうけるには、まず子を産もうとするカップルの間で体外受精卵をつくって保存し、子宮の移植手術を受け、提供された子宮が生着したことを1年ほど経過観察して確認したうえで、受精卵を子宮に着床させ、妊娠・出産した後、最終的には移植された子宮を摘出、除去する。移植患者に必要な免疫抑制剤の服用による感染等のリスクをなるべく減らすためである。
[橳島次郎 2022年6月22日]
子宮移植による子の出生の世界第一例は、2014年にスウェーデンで実現した。提供者は生きている61歳の知人女性だった。脳死した女性からの提供による子の出生は、2017年にブラジルで初めて実現した。その後2021年3月までに、16か国で85例の移植が実施され、アメリカ、チェコ、ドイツ、中国、フランスなど11か国で40例の出産が報告されている。出生児のうち32名が生きている人から、8名が脳死した女性からの提供によるものだった(慶應義塾大学医学部、木須伊織(きすいおり)の報告による)。
[橳島次郎 2022年6月22日]
子宮移植はまだ研究段階で、臨床試験として管理される。倫理的には、(1)生命維持にかかわらない臓器の移植は認められるか、(2)生きている提供者に長時間の摘出手術のリスクを負わせることは許されるか、(3)移植を受ける女性にも二度の手術と免疫抑制の重いリスクを負わせるが、それに見合うだけの子の出生の成功は見込めるか、といった点が問題になる。倫理的に問題が多く、一部の国では禁止されている代理出産の代替手段となる利点を指摘する意見もあるが、子を得るには先端医療に頼らず養子縁組をする方法もある。子宮移植の是非は、そうした広い視野から総合的に慎重に検討されるべきだろう。
日本では、2021年(令和3)7月に、日本医学会の検討委員会が、条件付きで臨床研究として生きている人からの子宮移植を容認する報告書が出された。脳死した女性からの提供は、日本では脳死ドナーが極端に少なく、さらに子宮を対象に加える臓器移植法令の改正が必要なので、先送りにされた。この報告書を受け、慶應義塾大学などが学内の倫理委員会による承認手続を進め、実施に向けた準備を行っている。だが日本では、生きている人からの臓器移植と生殖補助医療を、どこまで、どのような条件で行えるか規定した法律がなく、子宮移植が不妊治療の一種として認められるか、社会的合意はまだ得られていないといえる。
[橳島次郎 2022年6月22日]
『〔WEB〕日本医学会『日本医学会子宮移植倫理に関する検討委員会報告書 2021年7月』 https://jams.med.or.jp/news/059.html(2022年5月閲覧)』
(2015-11-5)
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