②については地方によって言い方が異なる。北陸・関西以西で「校区」、中部・中国・関西・北海道の一部で「校下」といい、交錯する地域もある。
教育行政単位区域としての意味と、児童・生徒の通学区域としての意味がある。前者では、一般行政区とは別に教育行政区を設定する方式が固有の意義をもち、アメリカでは一般行政から独立した教育委員会制度と学校税制度をあわせて独自の学区school district制度を発達させた。日本では、1872年(明治5)の「学制」で全国を8大学区に分け、各大学区を32中学区に、さらに各中学区を210小学区に分けて、教育行政区としての学区が採用された。後に、それは社会機能としては通学区域の意義を有したとされる。学制の制定の後、市町村を単位とする一般行政制度が確立され、教育行政区域としての固有の意味をもつ学区はなくなり、一般行政の単位が教育行政単位とされるようになった。
通学区域としての学区の明示的な設定は、学校ごとの就学者の量的質的な均一化を通して教育の機会均等を図ろうとするところにあるが、現実の学校格差の存在ゆえに便法的な住所設定に基づく越境入学の問題も発生することとなった。
公立小・中学校の通学区域設定に関しては、市町村教育委員会は、当該市町村の設置する小学校または中学校が2校以上あるとき、就学予定者の就学すべき学校を指定することになっている(学校教育法施行令第5条第2項)。これに対し、1987年(昭和62)に臨時教育審議会が教育における選択の機会の拡大を提案し、これを受けて文部省(現、文部科学省)から、地域の実情に即した児童生徒の就学すべき学校指定の弾力的運用について検討の必要があることが示されたが、その実態においては進展がみられなかった。このような経過から、1996年(平成8)に改めて行政改革委員会から学校選択の弾力化の推進が強く提案され(「規制緩和の推進に関する意見(第二次)」)、文部省からもこの提案に沿った通知が1997年に発表された。通学区域制度運用にあたっては保護者の意向に十分配慮した措置を講ずることのほか、学校指定の変更措置や区域外就学制度の周知を図ることなど、全体として通学区域制度の弾力的運用が指示された。その結果、たとえば東京都品川区では、2000年(平成12)から区内小学校を4グループに分け、保護者がその児童を入学させたい学校をグループ内から選べる制度が導入されるなど、小・中学校レベルの学区(通学区域)制度に変化がみられるに至っている。反面、学校選択制を導入した自治体のなかには、学校選択制の廃止に踏み切るケースも出現し、教育の規制緩和の効果を見定めようという気運が徐々に広がる雰囲気が見られるのが現在の状況といってよい。
他方、公立(都道府県立・市町村立)高等学校に関しては、従来、都道府県教育委員会が就学希望者の就学すべき高等学校の通学区域を定めることになっており、第二次世界大戦後の日本の高等学校制度では、前記趣旨に沿って小学区制(1学区1校)が原則とされたが、学校選択の自由の主張と能力主義的な政策動向の下(もと)に1963年(昭和38)以降、中・大学区制への移行が進んだ。それとともにいくつかの地方公共団体では、学区内高等学校間の格差解消や進学競争の弊害防止の目的で、学校群制度など選抜制度改善の試みも導入された。しかしその後、高等学校レベルにおける学校選択の自由への要求が強まり、2001年(平成13)には規制緩和政策により、公立高校の通学区域にかかわる規定が削除され、公立高校の通学区域の設定については、各教育委員会の判断にゆだねられることになった(地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律)。
[荒木 廣・葉養正明]
『三上和夫著『学区制度と住民の権利』(1988・大月書店)』▽『葉養正明著『小学校通学区域制度の研究――区割の構造と計画』(1998・多賀出版)』▽『三上和夫著『学区制度と学校選択』(2002・大月書店)』▽『千葉正士著『学区制度の研究――国家権力と村落共同体』オンデマンド版(2003・勁草書房)』
学校を存在させている地(区)域のことであるが,大別すると二つの意味で用いられる。一つは教育行政の基礎単位としての学区,すなわち教育行政区(域)としての学区であり,他の一つは就学・通学の地(区)域としての学区,すなわち通学区である。前者の学区の典型はアメリカにみられるが,それは一般行政区域とは別に設けられる教育行政区域で,この学区school districtに教育委員会が設置される。これと同様ではないが,日本では1872年(明治5)の〈学制〉で,一般行政区域とは別建ての〈学区〉が設けられたことがある。全国を8大学区に分け,一つの大学区を32中学区に,さらに一つの中学区を210小学区にそれぞれ分割するという制度がそれであった。しかし,〈学制〉廃止後は,教育行政の単位は一般行政区である都道府県ないし市町村を一般的な型としている。
これに対し,通学区はこれと重なるか,あるいは分割した区域であり,学区という場合,ふつうこの通学区のことを指す。その代表例が公立高等学校の通学区であり,都道府県教育委員会が,都道府県内の区域に応じて,就学希望者が就学すべき高等学校を指定した通学区域を定める(地方教育行政の組織および運営に関する法律50条1項)。公立小・中学校では市町村(区)が学区であるが,そこに2校以上の学校が存在する場合,各学校ごとの就学地域・通学区は市町村教育委員会が定める(学校教育法施行令5条)。学区は,単なる地域ではなく学校教育にかかわるしくみであるから,子ども,生徒の教育を受ける権利(学習・発達権)をはじめ,親の学校選択の権利が,学校教育の内容・制度において保障されるものであることが肝要である。都道府県を分割する高等学校の通学区は,学区の大小が入学試験制度や学校のあり方に結びつくものであり,また,公立小・中学校の場合でも,一定の条件のもとではあるが,親の学校選択の自由が区域外就学として認められている(学校教育法施行令9条)ことにかんがみ,慎重な運用が望まれている。
執筆者:神田 修
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…学制公布の前日にその趣旨を説明した太政官布告(学制序文,学事奨励に関する被仰出書ともいう)が発せられ,封建教学を否定し,個人の立身治産昌業を直接の目的とし,四民平等で女性をも対象とした近代的教育理念が示された。全国を一般行政区画とは異なる大,中,小の学区に区分し,各学区に学校を設立する計画(8大学,256中学校,5万3760小学校)であり,小学校は満6歳入学で上下2等各4年,中学校は14歳入学で上下2等各3年とし,これに大学・師範学校・専門学校を加えた学校体系を示し,その教育内容は欧米教育に範をとるものであった。教育費は受益者負担とし,官立学校を除いて原則として各学区内人民の共同負担とされた。…
※「学区」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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