都道府県や市区町村に設置され、地域の教育行政の方針や重要事項を決定する合議制の執行機関。首長が議会の同意を得て任命する教育長と原則4人の教育委員で構成される。具体的な事務を担う事務局には、出向した教員や自治体職員らが、教育課程などについて学校現場に指導・助言する指導主事や事務職員などとして配置される。教員にとっては「出世コース」とも言われ、学校現場に戻り校長や教頭になる例が多い。
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すべての都道府県、市(特別区)、町、村に設置されている教育行政機関(一部教育事務組合、共同設置教育委員会を含む)で、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(昭和31年法律162号、略称「地方教育行政法」)に基づき、大学と私立学校を除く学校教育や文化・スポーツなどを含む社会教育に関する事務を管理・執行する。また、これらを通じ、自治体や地域の教育政策を具体化した地域教育計画の主体として、その組織、運営にあたる地域教育の責任機関である。
[岩下新太郎]
第二次世界大戦後、アメリカ教育使節団の勧告に基づいて、1948年(昭和23)の「教育委員会法」制定によって発足し、当初は都道府県、5大都市だけが義務設置であったが、52年にすべての市町村に設置されることになった。戦後教育行政制度の理念とされた「民衆統制」(レイマン・コントロールlayman control)「地方分権」「教権独立」「専門職員による運営」を具体化したもので、それは、教育委員会法第1条に「……公正な民意により、地方の実情に即した教育行政を行うために、教育委員会を設け」とうたっていることや、「教育委員の公選制」、「教育予算の2本建制」、教育長に対する「教育知事」「教育市町村長」の呼称、教育長・指導主事・校長の免許制度にうかがえた。
1956年に「教育委員会法」は廃止され、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が制定された。現行の教育委員会は同法に基づくもので、教育委員会の新たな発足といえる。それは、これまでの教育委員会の基本理念は生かしながら、「一般行政と教育行政の調和」「教育の政治的中立と教育行政の安定確保」「国・都道府県・市町村一体としての教育行政制度の樹立」を図って改正された結果といわれる。
具体的には、教育委員の任命制、文部大臣による都道府県教育長の承認制、都道府県教育委員会による市町村教育長の承認制、「予算の2本建制」の廃止、県費負担教職員に対する任命権の市町村教育委員会より都道府県教育委員会への移管、文部大臣または都道府県教育委員会の措置要求などの改正である。
[岩下新太郎]
教育委員会は合議制の執行機関で、合議の議決機関である委員会(5人制。町村では3人で組織することもできる)と執行機関としての事務局とからなり、教育長が事務局を統括する。委員は「人格が高潔で、教育、学術及び文化に関し識見を有するもののうちから、地方公共団体の長が、議会の同意を得て、任命」し、任期は4年である。教育委員会は、委員のうちから委員長を選挙する。委員長は会議を主宰し、教育委員会を代表し、任期は1年である。事務局の内部組織は教育委員会規則で定められるが、都道府県教育委員会事務局には指導主事、事務職員、技術職員その他の職員を置き、市町村教育委員会はそれに準じることになっている。
教育委員会の職務権限は、「学校その他の教育機関を管理し、学校の組織編制、教育課程、教科書その他の教材の取扱及び教育職員の身分取扱に関する事務を行い、並びに社会教育その他の教育、学術及び文化に関する事務を管理し及びこれを執行する」(地方自治法180条の8第1項)とされている。
[岩下新太郎]
教育委員会は、運用を誤れば、公正な民意に基づき地方の実情に即して行われるべき地方教育行政の民主性、自主性の理念を形骸(けいがい)化するおそれを多分にもっている。教育委員会が本来の機能を発揮するためには、首長、議員、住民の良識に期待するとともに、他方、教育委員会設置単位の適正化、指導主事制度の改善などによって、事務局の組織を充実整備し、専門的教育指導体制を確立することが肝要である。とくに、民主性に関する課題としては、直接民意を反映させるくふうとして考え出された東京都中野区の「中野区教育委員候補者選定に関する区民投票条例」の適法性(1995年に廃止された)、また委員のうち1名が委員長、1名が教育長である3人制教育委員会の解消などがあげられる。
[岩下新太郎]
1998年(平成10)3月27日付で、中央教育審議会(中教審)は「今後の地方教育行政の在り方について」の中間報告を出した。そのうち、教育委員会についての内容は、だいたい以下のとおりである。
地域住民の意向の把握・反映や連携協力体制の充実を図ること。教育委員の数は原則5人としながらも、都道府県および市については、弾力化を図り(たとえば6人の委員で組織できるようにするなど)、委員の処遇についても、役割の重要性にみあったものにすること。課題となっていた教育長の任命承認制を廃止し、かわりに議会から直接信任を得ることで教育長のリーダーシップを高め、住民への責任を示すこと。議会の同意を得て、教育長の任期制を導入し、計画的・長期的視野にたった教育行政の展開を可能にし、特別職としての位置づけを明確化することなどであった。
さらに1998年9月、中教審「地方教育行政に関する小委員会」答申では、教育長の任命承認制廃止と議会からの直接信任の導入等が提示された。99年7月には、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律87号、略称「地方分権整備法」)が制定、公布され、2000年4月からは、主体的かつ積極的な地方教育行政の推進を目ざす新教育委員会制度が発足した。
[木村力雄]
『木田宏著『改訂地方教育行政の組織及び運営に関する法律』(1962・第一法規出版)』▽『日本教育法学会編『講座教育法6 教育の地方自治』(1981・総合労働研究所)』▽『小川正人著『地方分権改革と学校・教育委員会』(1998・東洋館出版社)』▽『平井由実著『アメリカ都市教育委員会制度の改革――分権化政策と教育自治』(1998・勁草書房)』
〈地方教育行政の組織及び運営に関する法律〉(1956公布。略称地方教育行政法)にもとづき都道府県と市町村(特別区を含む)などに設置されている地方教育行政の中心的な機関。制度的には自治体の長から独立した合議制の行政委員会として,大学と私立学校に関する事務を除き,学校教育,社会教育,文化・スポーツなどに関する自治体の教育関係事務のほとんどを管理,執行している。教育委員会の組織は,5人の教育委員(町村では3人でもよい)による委員会と教育長および事務局から構成されている。教育委員は自治体の長が議会の同意をえて任命し,任期は4年。委員のなかから互選される教育委員長が委員会の会議を招集・主宰し,委員会を代表する。教育長は事務局を統轄し,委員会の指揮監督のもとに,その決定した事務を具体的に執行する。教育長は委員会が任命するが,その際,都道府県と指定都市にあっては文部大臣の,市町村にあっては都道府県教育委員会の承認が必要とされている。
現行の教育委員会制度は戦後初期のものと比べ大きく改編されており,問題点も少なくない。この制度は第1次アメリカ教育使節団報告書(1946)の勧告にもとづき,アメリカで発達した教育委員会board of educationの制度を範としつつ,戦後日本の教育改革の重要な柱として,教育委員会法(1948公布)によって初めて設置されたものである(戦前,ごく短期間だが民選制の学務委員の設置(1879)や啓明会による独自の教育委員会構想(1920)はあった)。戦後の教育改革においては,戦前の中央集権的,官僚的な教育行政の機構と機能の根本的な改革がめざされ,改革の〈三原則〉として教育行政の民主化,地方分権化,自主性の確保(一般行政からの独立)が掲げられ,教育委員会制度はこれらを保障するものといわれた。この制度の眼目は教育基本法10条をうけて,〈教育が不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきであるという自覚のもとに公正な民意により,地方の実情に即した教育行政を行う〉(教育委員会法1条)ことにおかれた。教育委員は住民の直接公選であり,委員会は原則として文部大臣の指揮監督をうけない自治的組織であり,自治体の長に対しても教育予算,条例の原案送付権などにより,ある程度の独立した権限をもっていた。
日本の教育史上画期的なこの公選制教育委員会制度は,1948年都道府県と5大市に,52年全国の市町村に一斉設置されたが,それが十分根づかないうちに,56年広汎な反対の声をおし切って現行の任命制に改編されたのである(アメリカの施政権下におかれていた沖縄では,その後も72年の本土復帰まで独自の〈公選制〉が存続した)。公選制や教育予算,条例の原案送付権の廃止,教育長の承認制や文部大臣の措置要求権の導入などにより,教育委員会は一方で住民の意思を直接反映する自治的機関としての自主性を急速に弱め,他方で教職員と学校を上から管理統制し,国の教育政策を浸透・具体化する機関としての機能を強めてきている。しかし,深刻な教育問題が地域に山積している今日,教育委員会制度の機構と機能のあり方があらためて問われており,81年に東京の中野区が独自の条例によって実施した教育委員の準公選制の〈実験〉は全国の注目を集めている。
→教育行政
執筆者:三上 昭彦
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(新井郁男 上越教育大学名誉教授 / 2007年)
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都道府県・市町村など地方公共団体の教育行政機関。1948年(昭和23)教育委員会法にもとづいて設置。教育長と事務局,公選の教育委員(任期4年,3~5人)の合議制で運営され,学校教育,社会教育,文化・スポーツなど自治体の教育関係のことを管理・執行する。第2次大戦前の官僚的・中央集権的な教育行政を改め,公正な民意と地方の実情に即した自主的な教育行政(民主化・地方分権化)を期待するものであった。しかし広範な反対世論を押し切って,56年「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(地方教育行政法)が制定された。公選制は地方公共団体の首長による任命制に改められ,文部大臣の監督権,学校・教職員の上からの管理統制を強めている。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…そのため,学校体系や義務教育年限なども各州により異なる。各地域で教育行政の中心となるのは,素人統制と専門家行政の原理を結合した,州・地域レベルの教育委員会である。財政援助の形を除くと,連邦政府は伝統的に地域社会の教育に直接関与せず,文教行政機関としての教育省が設置されたのも1979年である。…
…一つは教育行政の基礎単位としての学区,すなわち教育行政区(域)としての学区であり,他の一つは就学・通学の地(区)域としての学区,すなわち通学区である。前者の学区の典型はアメリカにみられるが,それは一般行政区域とは別に設けられる教育行政区域で,この学区school districtに教育委員会が設置される。これと同様ではないが,日本では1872年(明治5)の〈学制〉で,一般行政区域とは別建ての〈学区〉が設けられたことがある。…
…中央・地方の公権力が教育政策の実現をめざして教育事業を組織し運営する日常的な活動をいう。日本を例にとれば,文部省や教育委員会などの教育行政機関が一定の法律や条例にもとづいて行う教育計画の策定,学校などの教育施設の設置・管理,教職員の養成・採用・管理,教育課程の基準の策定,教科書の検定・採用,教育予算案の作成と執行などの諸活動をいう。教育行政という社会的機能は,歴史的にみれば公権力がなんらかの形で教育事業に関与することにより生まれたが,公行政の一分野として近代的な教育行政の機構と機能が確立するのは,国民教育制度が組織される時期である。…
…教育委員会に置かれる職員で,学校の教育課程,学習指導その他学校教育に関する専門的事項の指導に関する仕事に従事する者をいう。なお,これには,教員身分のままで指導主事の職務を行う者もあり,これを〈あて指導主事〉という(教育委員会に勤務するが,その事務局職員ではない)。…
…地方教育行政の組織及び運営に関する法律(1956公布)の略称で,地教行法と略す場合もある。教育委員会の設置,学校その他の教育機関の職員の身分取扱い,その他地方自治体における教育行政のしくみ・運営について定めた法律で,教育委員会の組織・権限などを規定していた教育委員会法(1948公布)が廃止され,代わって新たに制定された。そのおもな特色は,教育委員会法における教育委員の公選制(自治体住民による直接投票制)を,自治体の長が議会の同意を得て任命する制度に改めたこと,教育長の任命承認制(任命承認主体は,都道府県の教育長は文部大臣,市町村の場合は都道府県教育委員会)の導入,教育事務処理についての文部大臣の是正措置要求権の法定,さらに教育委員会にあった教育予算の提案権を自治体の長に移したことなどである。…
※「教育委員会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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