学年経営(読み)がくねんけいえい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「学年経営」の意味・わかりやすい解説

学年経営
がくねんけいえい

同一学年を担当する教師集団がさまざまな教育活動に協働して取り組む営み。学年経営では、学年主任を中心に各学級担任らによる教育活動が、学年として達成すべき目標に向けて実施される。学校経営学級経営の間に位置し、学校教育目標を効果的に達成するとともに、同一学年を担当する教師間の連携・協力を促進させる働きをもつ組織活動と理解できる。

 学年経営の実務は、(1)教育課程に関連する実務(学年における指導計画の作成、学習状況の把握進度の調整、学年行事の計画と実施)、(2)生徒指導に関連する実務(学校内外の生活の把握と指導、各種問題行動の指導)、(3)組織運営に関連する実務(学年経営案の作成、学年分掌、学年の会計)、(4)保護者との連携に関連する実務(学年保護者会の計画と実施、学年通信の発行)などである。

 その機能は、(1)学校教育目標や経営方針との統一性の確保、(2)教師間の連携・協働による教育効果の向上、(3)教師に対する研修機会の提供と職能発達、(4)教師間の人間関係の調整やコミュニケーション環境の改善などにある。とくに小学校・中学校においては学年が各活動の基盤的組織となっており、教員の力量形成においても重要な役割を果たす。

 学年経営の重要性が注目されたのは、学校規模が拡大した高度経済成長期であった。小学校を中心に学級担任制見直しの機運が高まり、教科指導、生活指導から学校行事にいたるまで、学年を単位とし複数の学級でともに取り組むべき課題が出てきたことを背景に、1971年(昭和46)の中央教育審議会答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」は、これまで慣習的に置かれてきた主任の職務を、管理上、指導上の職制として確立することを提言した。1975年には、学校教育法施行規則の一部改正によって制度化され、主任の設置と職務内容が明確になった。学年経営において重要な役割を担う学年主任の職務は、「校長の監督を受け、当該学年の教育活動に関する事項について連絡調整及び指導、助言に当たる」(学校教育法施行規則第44条5項)と規定された。

 教育改革国民会議が「教育を変える17の提案」を報告した2000年(平成12)以降は、学校における組織マネジメントの考え方が導入され、学年主任にはミドルリーダーとしての役割が求められている。ミドルリーダーとは、単に役職や年齢が中間にあることを意味するものではない。学年という組織を基盤とし学校組織における課題解決を図る、創造的・戦略的な職務を担う存在である。学級担任間の連絡・調整業務だけでなく、企画・立案し情報を提供する積極的なリーダーシップを発揮することが期待される。

 学校規模や学校種によって、学年経営の実態はさまざまである。たとえば小規模校では、少ない教員で学年経営を行っており、学年経営と学級経営が同一の場合も多い。一つの学年にとらわれない、学年を超えた教師間の協働が、学校内の教育活動に効果的に機能することもありうる。また、おもに学級担任制をとる小学校と、教科担任制を基本とする中学校では、状況が異なることはいうまでもない。2022年度(令和4)からは、小学校高学年にも教科担任制が導入された。ひとりの教師による学級経営の集合体としての学年経営から、複数の教師で構成されるチームによる学年経営への転換点にもなりうる。スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラー、特別支援教育支援員(障害のある児童・生徒に対し日常生活動作や学習活動上のサポートを行う)などをはじめとする専門スタッフの配置も増加しており、より密な連携が期待される。

 学年という同じ発達段階の子どもにかかわる大人が複数化・多様化するなか、各学校の実態に即しながら、教職員間で連携・協働して児童・生徒の理解や課題解決を図っていく必要がある。学年経営の重要性は、今後増していくと考えられる。

[小野明日美・浜田博文 2023年3月17日]

『小島弘道編著『学年主任の職務とリーダーシップ』(1996・東洋館出版)』

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