義務就学期間にあたる年齢をいう。つまり、保護者がその子を義務教育諸学校に就学させなければならない年齢であり、現行法では「子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満15歳に達した日の属する学年の終わりまで」(学校教育法17条)の9年である。保護者が小学校に就学させなければならない子を学齢児童、中学校に就学させなければならない子を学齢生徒という。
歴史的にみると、第二次世界大戦前においては、学齢と義務就学年限とはかならずしも一致していなかった。年齢に関しては、1879年(明治12)の教育令が「凡(およそ)児童六年ヨリ一四年ニ至ル八箇年ヲ以(もっ)テ学齢トス」としたのが最初の規定であり、学齢を8年とする方針が一貫してとられてきた。しかし、この間、義務就学年限は1900年(明治33)に4年、1907年に6年となって終戦(1945)まで続いた(1941年に8年となったが、実施延期のまま終戦)。
[津布楽喜代治]
今日、義務教育は子供の教育を受ける権利を保障するためのものと解されており、学齢期間中の教育はすべての子供に保障されなければならない。そこで、就学を完全に実施するため、市町村教育委員会は、その市町村に居住し翌年4月から小・中学校等に就学する者について学齢簿を作成し、1月末日までに保護者に入学期日等の通知を届けることになっている。そして、経済的理由によって、就学困難と認められる学齢児童・生徒の保護者に対しては、市町村は必要な援助を与えなければならず(学校教育法19条)、また、学齢期間中の者は、特別の例外を除き、労働者として使用してはならない(労働基準法56条)。こうして、学齢期間中の教育をすべての子供に保障しようとしている。ただ、病弱、発育不完全その他やむをえない事由のため就学困難と認められる者の保護者に対しては、就学義務を猶予または免除することができる(学校教育法18条)。
[津布楽喜代治]
1970年(昭和45)ごろから、幼児の心身の発達の加速化などを理由に、学齢(就学の始期)を引き下げようとする主張がなされてきた。確かに、幼児の身体的発達や読み書き能力の発達など顕著なものがあるが、しかし、その幼児たちに学級単位で一斉的な学習を継続するのに必要な、一定時間集中できる力が発達しているか否かの検討が必要である。また、1990年代後半からの規制緩和の流れのもとで、就学年齢の弾力化を主張する動きもあるが、やはり慎重な検討が必要であろう。諸外国の場合、就学の始期は5歳のところもあるが、6、7歳が一般的である。
[津布楽喜代治]
『伊藤秀夫編著『義務教育の理論』(1968・第一法規出版)』▽『鈴木勲編著『逐条学校教育法』第4次改訂版(1999・学陽書房)』▽『森部英生・山本政男編『全訂・教育法規読本』(1999・教育開発研究所)』▽『下村哲夫著『教育法規便覧』各年版(学陽書房)』
保護者が,その保護する子どもを就学させる義務を負っている期間の子どもの年齢(6歳から15歳まで)をいう。学校教育法では,保護者に対し,子どもが〈満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初め〉から,〈満15歳に達した日の属する学年の終り〉まで,義務教育諸学校に就学させる義務を負わせている。したがって,4月2日から,翌年4月1日までの期間に生まれた子どもが,同一学年を構成することになっている。1879年の教育令において,〈児童6年ヨリ14年ニ至ル8箇年〉が〈学齢〉と規定されたが,すでに1872年の学制においても6歳が就学始期年齢と考えられており,日本では近代公教育制度の出発当初より6歳就学が定着している。欧米でも,6歳が就学始期年齢となっているところが多いが,イギリスの場合は,例外的に5歳就学を採用している(インファント・スクール)。
執筆者:浪本 勝年
学齢に達した子どもが学校教育を受けるにふさわしい心理的・生理的な成熟をなしとげているかどうかを問題にするために,第2次大戦後,主としてドイツで用いられてきた概念。義務教育期間における落第の大きな原因が未成熟のまま就学したことにあるとする考え方と結びついてこの概念が提起された。ドイツでは,未成熟児を発見する多くのテストが開発され,学齢成熟の質的分析も進んだが,影響はむしろ就学前教育の意義の見直し,その制度や内容の改革を促す方向で作用した。今日でも,就学年齢の決定や就学前教育から学校教育への移行期の教育制度や教育内容の検討のさいに有効な概念である。
→就学
執筆者:茂木 俊彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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