日本大百科全書(ニッポニカ) 「宇宙電波」の意味・わかりやすい解説
宇宙電波
うちゅうでんぱ
宇宙から地球にやってくる種々の電波を総称していう。宇宙における物質の多様な運動はあらゆる波長域の電磁波を生み出しているが、電磁波のなかでもっとも長波長の領域である電波は、必然的に宇宙における低エネルギー現象、一般的には極低温の物質領域において現れる。宇宙から地球に降り注ぐあらゆる電磁波のうち、可視光と電波だけが地球大気を透過して地上に達するから、この二つの電磁波領域は地上から宇宙を観測できる「窓」となっている。
1931年にジャンスキーによって偶然発見された宇宙電波は、その後の電波望遠鏡の発展につれて、私たちの宇宙像を一変させた。可視光のみによって行われていたそれまでの宇宙の観測は、比較的高温の天体(主として恒星)によって構成される宇宙像をつくりあげていた。これに対し電波は、可視光では見ることのできなかった極低温の星間物質や、可視光領域ではすっかり衰えてしまったかつての大爆発(超新星や銀河爆発)の痕跡(こんせき)を明らかにした。爆発に伴う電波はシンクロトロン放射とよばれ、長波長領域で顕著であるのに対し、暗黒の低温物質からの電波は種々の分子がその回転エネルギーの変化によって発する線スペクトルを中心とし、ミリ波とよばれる最短波長の領域に集中している。宇宙電波観測装置の発達は、長波長での大型干渉計、短波長での高精度パラボラ鏡において著しく、さらに大型化と精密化を統合しつつある。ミリ波より波長の短いサブミリ波で観測を行う巨大な干渉計「ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)」が、日・米・欧の共同でチリに建設され、2013年から共同運用を始めているのはその顕著な例である。また長波長帯の電波では、デジタル化の極致ともいえる大陸サイズの大型電波干渉計(SKA)の建設計画が、オーストラリアと南アフリカで始まった。
[海部宣男 2017年7月19日]
『海部宣男著『電波望遠鏡をつくる』(1986・大月書店)』▽『赤羽賢司・海部宣男・田原博人著『宇宙電波天文学』(1988/復刊・2012・共立出版)』▽『中井直正他編『宇宙の観測2』シリーズ現代の天文学16(2007・日本評論社)』▽『海部宣男著『銀河から宇宙へ』(新日本出版社・新日本新書)』