翻訳|orthogenesis
化石が示す生物の進化系列にはしばしば形態や大きさの時間的変化に方向性が認められる。コープE.D.Cope,アイマーT.Eimerら19世紀末から20世紀初頭のかなり多くの進化学者(特に古生物学者)は,進化は一般に非適応的なもので,生物自体に内在する力によってあらかじめ定められた方向に形態の変化が起こると考えた。これが定向進化説orthogenesis theoryである。現代の進化学者の多くは現象と学説とを区別し,方向性をもつ進化directional evolutionは認めるとしても,神秘的な要因を仮定するような定向進化説は支持しない。しかし,方向性のある進化がなぜ起こるのか,必ずしも統一的な説明がなされているわけではない。
方向性のある進化は体サイズの増加,器官の特殊化,体節数の減少などにしばしば見られるが,その進化過程は必ずしも一方的な変化ではなく,彷徨(ほうこう)を繰り返しながらも全体として認めうる傾向と解せられる。古くから定向進化の好例とされてきた古生物がいくつかある。定向進化論者は,ジュラ紀のカキ類グリフェアGryphaeaは有用の限界を越えて過剰に殻が巻き絶滅に追いこまれたとし,氷河期の巨大な角をもつオオツノジカ,上顎の犬歯が極度に発達した剣歯虎(けんしこ)(スミロドン)も非適応的進化の産物であって,自然淘汰説では説明できないとした。しかし,最近の研究はいずれもその解釈には否定的で,例えばグリフェアはより充実した化石記録によって逆に巻きがゆるむ方向に進化したことが明らかにされたし,オオツノジカの角は性淘汰で,剣歯虎の犬歯は力学的に検討されて機能的な意味があると説明されるようになった。
形態変化の方向性の原因としてある学者は環境の一定方向への変化をあげている。これは定向淘汰orthoselectionと呼ばれる概念で,定向進化説に代わる学説として一般に広められた。この中には単純に地球上の物理・化学的条件(例えば気候)が一定の方向に変わったことを強調する人もいるが,その裏づけは多くの場合十分ではない。むしろ定向淘汰は生物自身が能動的に新しい生活空間を開発し,新しい生態的地位を獲得する過程で,変化する環境に対して起こるものと考えられる。体サイズの定向的な大型化はコープの法則と呼ばれ,例外はあるが,哺乳類・爬虫類だけでなく多くの無脊椎動物の進化系列に普遍的に知られる現象である。大型化は体内の条件を外界から独立して保持し,捕食者から身を守り,食物の範囲を広げるなど個体にとって有利な変化となりうるが,他方では体構造の特殊化,個体数の減少を招き,変動する環境に対しては絶滅しやすい生物を生み出す。大型化する進化系列が多いのに高次分類群全体の平均サイズがあまり変わらないのはこのためであろう。最近ではコンピューターを用いて,方向性があるように見える進化においてランダム変動の果たす役割が考察されている。
執筆者:速水 格
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
生物のある系統群に属する化石を産出年代順に並べると、それらの形態的特徴に一定の方向性をもった変化がしばしば認められる。このような変化の傾向を定向進化という。直進進化あるいは指向進化などともいう。
このことばはアイマーが1885年に提唱した。その後、古生物学者のコープやH・F・オズボーンなどによって展開された進化学説をとくに定向進化説という。これは、進化の定向性が自然選択(淘汰(とうた))説では説明できないとして唱えられたもので、そうした方向性になんらかの内在的な「力」を想定している。そのような見方は、もともとは、「進化」を永遠の大いなる完全化の過程もしくは運動とみる理神論や目的論に普遍的であった。ラマルクの単純から複雑への連続自然発生の考えはその典型とされるし、ダーウィンの『種の起原』を評したK・E・von・ベーアもこうした目的論の擁護を表明していた。さらに、ネオ・ラマルク主義を掲げ、体の増大化を強調した「コープの規則」、オズボーンの唱えたアリストゲネシス、ベルグL. Bergのノモゲネシスから、哲学者ベルクソンのエラン・ビタール、そしてテイヤール・ド・シャルダンのオメガ原理なども、説明の仕方に差はあるが、目的論的定向進化説の系譜をなすだろう。
現在ではこれらの定向進化説は一般的には受け入れられていない。しかし、大進化的時間尺度におけるなんらかの形態上の諸傾向は、事実としては広く認められている。当初考えられていたほど単純ではないにしても、ウマの指の短化や歯の複雑化、ゾウの牙(きば)や鼻の伸長、エルクジカの角(つの)の巨大化などが具体例としてよく引用される。そのような傾向はどのようにして生じたのかがいま改めて問い直されている。というのは、これは、従来漸進説の立場で、恒常的な環境条件と選択圧の方向性を仮定して、やや安易に説明されてきた、もしくは、その傾向自体が厳密でないとして無視されてきた。それに対して、1970年代以降、断続説(区切り平衡説)が提唱され、種形成の分岐が相反する方向に確率的に均等に生じるとしても種の絶滅率に差(スタンレーS. M. Stanleyのいう種選択)があれば定向性を説明できるし、また新種産生率そのものに差があれば結果は同じになるという。これは漸進説‐断続説論争の主要な争点とされるからである。
[遠藤 彰]
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