一般的には自宅の作業場で家内労働を中心に営む小規模の工業経営をいうが,歴史的には,商人(問屋)から供給される原材料や半製品を自宅で賃加工する問屋制家内工業を指す。作業が労働者の〈家庭〉で行われるので,英語では〈ドメスティック・インダストリーdomestic industry〉というが,問屋が仕事を〈下請けに出す〉ので〈プッティングアウト・システム〉とも呼ばれる。家内工業は道具と熟練に技術的基礎をおいている点では,中世のギルドや手工業制度と変わらないが,分業を導入した点で一つの組織的な革新であり,生産性の向上をもたらした。たとえば産業革命以前の繊維工業は一つのシステム産業であって,生産の組織者たる織元は紡績,織布,染色または仕上げの各工程ごとに別々の手工業者と下請契約を結び,一つの工程が仕上がると,それを集めて次の工程を担当する別の手工業者に渡す。これを順に繰り返すと最後に一反の織物が完成する。このようなシステムの下では手工業者は特定の作業に専門化するから労働の生産性が向上する。一方,織元は固定資本の節約,農村の豊富かつ低廉な余剰労働の活用という有利さのほか,市況の繁閑に応じて比較的容易に雇用量を増減することができた。というのも労働者の側に手工業と農作業との調節が可能であったからである。したがって農村の余剰労働が豊かな時代には,一定の技術的条件--作業工程の分割が可能であり,高度の熟練も,厳重な監督も要せず,生産要具が簡単で労働者の資力でまかなえること--を満たす製造工業にとっては,家内工業は最も合理的な形態であった。織物,編物,レース,手袋,麦藁帽,ロープ,漁網,刃物,釘,靴,家具等の工業がその例である。西ヨーロッパでは16世紀から18世紀までが家内工業の最盛期であって,その後は産業革命による工場制度の出現によって,しだいにその地位を奪われていくことになる。
→家内労働 →問屋制家内工業
執筆者:荒井 政治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
市場目当ての大量生産にもかかわらず、生産工程が小規模で、多くの生産者の住宅内で商品がつくられる企業体制。技術的には手工業と通じる場合が多いが、独立手工業者が自ら直接に市場を相手に生産するのに対して、家内工業者は、外部の企業家に委託されて生産するから、市場との関係は間接的である。資本力をもち、市場での販売力をもつ企業が、零細な分散した家ごとの生産者に製品を統一的につくらせ、市場で販売する。このため、家内工業の生産者は企業家に対し従属した関係にある。なお企業家が自ら直接に仕事を委託する場合と、仲介人が生産者との間にたつ場合とがある。仲介人は企業家の単なる代弁人であるか、自らも生産者への委託人として危険を負担して利益をねらうという二つの場合がありうる。これらの複雑な関係において生産者の従属が厳しくなると苦汗(くかん)制度とよばれる。なお、企業家が原料や生産用具を前貸しし、製品の価格を買いたたくときには、問屋制家内工業となる。それは、中世または前近代の手工業と近代の機械制工業の中間に存在した過渡期の企業形態であった。近代になって衰退した面がある一方、産業の停滞期、繁栄期のいずれにも、家内工業が一定の役割を担ってきた。大工業への集中がむずかしい伝統の強い地域性や、労働集約的な産業の存在のためである。刺しゅうなど手仕事の必要な繊維加工業や雑貨品、玩具(がんぐ)や時計などの組立て工業では、家内工業が根強く残存してきた。
なお家内労働者には、世帯主が生計維持の専業とする者、世帯主以外の家族の内職者、世帯主の副業がありうる。わが国は後発資本主義国として労働集約的産業があり、家内工業が第二次世界大戦後も盛んである。1965年(昭和40)に家内労働者の96%が軽工業に従事していた。また、専業者14%、内職者80%、副業者6%であった。男女別でみると、男子が1割弱、女子が9割強であり、家族内の女子の内職が日本の軽工業を支えていることがわかる。
[寺尾 誠]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…直接生産者が,通常,家庭を仕事場として,単独あるいは家族とともに,みずから調達するか,仲介人または業者から供給をうけた簡単な機械や器具,原料をもって,委託加工を行い,加工賃をうる労働をいう。資本に従属的な労働である点で,家内工業と区別される。資本主義の初期においては,家内労働が独立の経営としての家内工業をになっていたが,工場制度の発達にともなって,それがしだいに分解し,工場労働の周辺部に,世帯主以外の家族による家計補助的な内職的家内労働が,広範に行われるようになった。…
※「家内工業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加