家内労働(読み)かないろうどう

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

家内労働
かないろうどう

自宅などで,一人でまたは同居する親族の補助を受けて,物品の製造や加工に従事すること。製造業者や請負業者からの委託により,原材料や機械などの生産手段提供を受けるかたちで製品・半製品を納入して工賃を得る賃金労働であり,生産手段を所有する独立自営業とは異なる。主婦などが内職として従事する内職的家内労働が大部分を占め,世帯主が本業として従事する専業的家内労働,世帯主が副業として従事する副業的家内労働と続く。工業が発展する初期段階ではその担い手であったが,問屋制家内工業,機械制大工業へと移行するにつれて機械ではできない工程を担当するようになり,低賃金,長時間労働,危険で不衛生な作業環境を強いられた。過酷な労働条件に対して,日本では 1970年に家内労働法が成立,家内労働手帳を交付して生活の安定がはかられるようになった。1973年の 184万4400人をピークに減少を続けている。

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百科事典マイペディアの解説

家内労働【かないろうどう】

製造業者から原料や単純な機械器具等の提供を受けて加工賃を得るため家庭内で行う労働。内職もその一例。女性,児童,老齢者が多く,請負形式をとり,長時間労働,低賃金で中間搾取が多く,最低賃金法には工賃の最低額を定めているが実効はない。資本に従属的な労働である点で,家内工業と区別される。なお家内労働者に対する保護と生活向上の基本法として1970年家内労働法が制定され,都道府県労働基準局長による労働時間適正化の勧告および最低工賃の決定などが行われることになった。→家内労働条約
→関連項目家内工業

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世界大百科事典 第2版の解説

かないろうどう【家内労働】

直接生産者が,通常,家庭を仕事場として,単独あるいは家族とともに,みずから調達するか,仲介人または業者から供給をうけた簡単な機械や器具,原料をもって,委託加工を行い,加工賃をうる労働をいう。資本に従属的な労働である点で,家内工業と区別される。資本主義の初期においては,家内労働が独立の経営としての家内工業をになっていたが,工場制度の発達にともなって,それがしだいに分解し,工場労働の周辺部に,世帯主以外の家族による家計補助的な内職的家内労働が,広範に行われるようになった。

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大辞林 第三版の解説

かないろうどう【家内労働】

問屋・製造業者などから原料や道具などの提供を受け、自宅で単純な物品の製造・加工を行い賃金を得る労働の形態。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

家内労働
かないろうどう

資本主義のもとでの家内労働とは、業者(製造業者または問屋(といや))から原材料や機械・器具などの生産手段の提供を受けて加工を施したのち、製品または半製品を業者に納入することによって加工賃を得ている労働形態をいう。家内労働者は、基本的な生産手段を所有していない事実上の賃労働者であり、独立した自営業者と区別される。業者と家内労働者との間に仲介人(請負人)が介在することによって中間搾取が行われることがある。家内労働者は通例自宅で同居親族などの補助者とともに孤立して作業に従事しており、協業形態を原則とするマニュファクチュアや機械制大工業と対比される。[伍賀一道]

歴史

家内労働の歴史的発展過程は次のとおりである。
(1)資本主義成立以前の小商品生産段階の独立した都市家内工業や農家副業としての家内労働
(2)資本制生産への過渡期のマニュファクチュア段階で商人資本に従属した問屋制(といやせい)家内工業
(3)機械制大工業が確立したもとで工場生産の周辺部に資本によって編成された家内労働の形態
 (3)には機械制大工業の資本が機械体系に包摂しにくい周辺工程を家内労働に担当させる場合と、小零細資本が工場制生産に対抗するために低賃金・低労働条件の家内労働を利用する場合とがある。(1)(2)(3)を対比すると、(1)では当時の工業の発展段階を代表する家内工業の担い手として家内労働者は独自の歴史的位置を占めていたのに対し、(2)(3)になると家内労働者は商人資本や大工業資本に従属した賃労働者となる。機械制大工業のもとでの家内労働は近代的家内労働とよばれる。その担い手は女性や年少者、高齢者、没落した自営業者などの不熟練労働者である。彼らは大工業や大農業経営から排除された相対的過剰人口の停滞的形態に属し、低賃金、過長労働時間、不衛生な作業環境のもとに置かれ、労働者全体の労働条件を押し下げる役割を果たした。[伍賀一道]

法的規制

家内労働に対する法的規制については、工場法が世界に先駆けて成立したイギリスにおいても19世紀末まで放置されていたが、ウェッブ夫妻らの社会改良家は家内労働を「苦汗労働問題」と位置づけ、その法的規制の必要性を主張した。これは1909年の賃金委員会法Trade Boards Act(最低賃金法の一種)の制定をもたらした。イギリスに続いてドイツの家内労働法(1911)、フランスの家内労働法(1915)などが制定された。
 日本では第一次世界大戦後の産業「合理化」過程で、ILO(国際労働機関)において欧米諸国から日本商品のソーシャル・ダンピングが非難されたのを契機に家内労働が社会問題化したが、工場法(1911年制定、1916年施行)の適用もなく、家内労働は野放し状態に置かれていた。第二次世界大戦後に制定された労働基準法(昭和22年法律第49号)は雇用形態を問わず全労働者に適用されたが、内職などの家内労働者については行政解釈によって同法の適用は除外された。1959年の最低賃金法(昭和34年法律第137号)においてようやく最低賃金とのかかわりで家内労働者の最低工賃の決定が取り入れられ、これは1970年の家内労働法(昭和45年法律第60号)に引き継がれた。同法は最低工賃の決定にとどまらず、家内労働手帳の交付による委託条件の明確化、就業時間の是正、委託打ち切りの予告、工賃の支払い規定、安全衛生改善措置、家内労働審議会設置など、家内労働全般にわたる規制を定めた。[伍賀一道]

日本の実情

厚生労働省の「家内労働実態調査」によると、日本の家内労働者は高度成長期を通して増大してきた。1962年(昭和37)の85万人から1970年の181万人へ、そして1972、1973年には184万人(このほかに同居親族の補助者20万人)とピークに達したが、石油危機(1973)を契機とする低成長経済への転換の下で、生産調整のあおりを受けて家内労働者への委託が減少した。これに伴い家内労働者数は1975年の156万人以降、1985年115万人、1995年(平成7)55万人、2000年33万人、2005年21万人、2009年15万人と急減している。
 ピーク時から2009年まで男女の比は変わらず、女性が家内労働者の90%以上を占めている。また類型別では、主婦などの内職的家内労働者が圧倒的に多く(2009年13.7万人)、残りは世帯主が本業として従事している専業的家内労働者(同、0.7万人)、本業の合間に従事する副業的家内労働者(同、0.1万人)からなっている。業種別では繊維関連、機械器具、雑貨製造などに従事する家内労働者が8割近くを占めている。さらに地域別では愛知、静岡、大阪、東京など大都市を抱えた都府県に集中している。
 家内労働者の労働条件は、他の非正規雇用労働者と比べても一段と低水準である。厚生労働省「家内労働等実態調査」(2006)によれば、女子家内労働者1時間当りの平均工賃(458円)は、女子パート労働者の1時間当り賃金(940円、「平成18年賃金構造基本統計調査」による)の半分に達しない。また男子家内労働者の工賃(1時間当り688円)との格差も大きい。家内労働者の平均年齢は一般労働者と比べて高く(男子63.9歳、女子55.2歳)、家内労働に従事してきた経験年数の長期化が目だっている(男子18.8年、女子11.5年)。家内労働者のなかには危険有害業務に従事している者も相当数存在しているため、工賃面にとどまらず安全衛生上の改善が必要である。
 前述のごとく、家内労働者は急減傾向にあるが、これとは別に1990年代後半ごろよりパソコンやインターネットなど情報通信機器を用いた新たな形態の在宅就業(テレワーク)が増加している。その人数は数十万人とも100万人ともいわれるが、正確な統計はない。厚生労働省「情報通信機器の活用による在宅就業実態調査」(2001)によれば、テレワークに従事する人の70%は女性で、そのうち30%は6歳以下の子供を有する。女性の55%は30歳未満で、パートタイマーに比べると若い。発注量の多い仕事は「設計、製図、デザイン」「文書入力」「データ入力」「ライター、翻訳」などである。テレワークを始めた理由として「自分のペースで柔軟に働ける」「育児や介護など、家事と仕事の両立が可能」などが多くを占める。他方で、注文主とのトラブルや、健康管理・能力開発などの面でさまざまな課題を抱えており、仕事を安定して確保することがむずかしく、また仕事の単価が安いという問題もある。テレワークは未来の労働形態を予測させる面と同時に、現状では旧来型の家内労働と同じく不安定就業の側面をあわせもっている。
 ILOは、1996年に従来の家内労働に加えてテレワークなどを含む在宅労働者をも対象として、その保護や労働条件改善を目的とした「在宅形態の労働に関する条約」(177号条約)を採択したが、日本はいまだ批准していない。[伍賀一道]
『寺園成章著『家内労働法の解説』(1981・労務行政研究所) ▽神尾京子著『家内労働の世界』(2007・学習の友社) ▽労働省女性局編・刊『家内労働の調査』各年版 ▽労働省女性局編『女性労働白書』各年版(21世紀職業財団) ▽佐藤彰男著『テレワーク』(岩波新書)』

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