日本大百科全書(ニッポニカ) 「家族周期」の意味・わかりやすい解説
家族周期
かぞくしゅうき
family life cycle
家族の生活周期をさす。夫婦と未婚の子よりなる、いわゆる核家族をモデルとして考える場合、それは結婚によって成立し、新婚期、育児期を経て、やがて成人した子供が婚出していくことによってふたたび中高年の夫婦2人となる。配偶者の死、そして本人の死によってこの家族は消滅する。しかし、ここに生まれた子供は、結婚を通じて両親と同じ核家族を再生する。つまり、一つの核家族は、モデル的にみて一定の段階(形成→増大→減少→消滅)をたどり、それに重なる形で次の世代が新しい段階を追う。こうして定位家族family of orientation(子からみて、自分を社会化させ、社会のなかに位置づける家族)から生殖家族family of procreation(子を生み社会化する家族)へと、核家族は連続し循環する。ライフ・サイクルとは、広義にはこのような世代間の家族循環、狭義には一つの家族における、結婚によって始まるいくつかの段階のセットをさす。
家族周期に関する先駆的な研究者に、イギリスの経済学者ロウントリイB. S. Rowntree、ロシアの農業経済学者チャヤーノフA. Chayanov、アメリカの社会学者ソローキンP. A. Sorokinなどがいる。ロウントリイは、都市労働者家族について調査を行い、貧困が家族の発達段階に応じて循環することを指摘した。チャヤーノフ、ソローキンは、ともに農民家族について研究を行い、家族の発達段階に応じて家族の労働力が変化し、それが営農規模や所得に連動することを指摘した。それ以降おもにアメリカの家族社会学者によって展開され、家族研究の発達的アプローチdevelopmental approachとよばれているものが今日の家族周期論である。核家族をモデルとした発達段階として、新婚期、第1子を基準とした乳幼児期、学童期、青年期、婚出、そして末子の婚出、夫の退職、老夫婦のみの生活など、研究者によって多少の相違はあるが、いわゆる人生の節目が取り上げられている。
家族周期に注目することによって、家族成員数、家族内役割、住宅の大きさ、所得と消費、家族の当面する問題などの動きをとらえることができる。日本に特徴的な直系家族の周期については鈴木栄太郎、小山隆(たかし)らの先駆的な研究がある。なお、発達段階である各ライフ・ステージへの移行期には発達課題(たとえば、結婚・出産・育児・受験・婚出・定年退職・死別など)が存在することから、課題解決や課題達成が家族発達をとらえる重要なポイントとなる。その失敗は家族危機をもたらし、家族問題や家族解体を発生させる。
1980年代後半以降、離婚の増加などに伴う家族形態の多様化に伴い、前述の発達段階にかならずしも当てはまらない事情も現れてきた。また、このアプローチでは集団次元を重視するので、個々の家族成員、すなわち子供、青年、高齢者、あるいは就職や結婚ならびに離婚などの問題を十分にとらえられないことから、個人のライフコースあるいはライフスタイルからアプローチする立場も現れてきている。
[増田光吉・野々山久也]
『森岡清美著『家族周期論』(1973・培風館)』▽『森岡清美・望月嵩著『新しい家族社会学』(1997・培風館)』