家産官僚制
かさんかんりょうせい
patrimonial bureaucracy 英語
Patrimonialbürokratie ドイツ語
ドイツの社会学者マックス・ウェーバーが、近代的な合理的官僚制に対比して用いた概念。伝統的支配の典型である家父長制の支配範囲が拡大したために、家長に絶対的忠誠を誓う支配幹部、すなわち家産的官僚が、家長にかわって彼の家産である領土や人民の支配を中心としながら、それ以外の周辺領域をも支配する制度のことである。このような家産官僚制による支配の歴史的事例として、ウェーバーは、古代エジプトや古代中国における皇帝の支配や、近代の絶対君主による支配をあげている。家産官僚制においては、官吏の君主に対する支配服従関係は、恭順の感情に基づく隷従関係であって、官吏の人格は認められない。この意味で彼らは「家産的」官僚であった。官吏の天皇への忠誠を規定していた第二次世界大戦前の日本の官僚制は、多分に家産官僚的色彩を帯びていたといえる。
[佐藤慶幸]
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家産官僚制
かさんかんりょうせい
patrimonial bureaucracy; Patrimonialburokratie
M.ウェーバーの用語で,伝統的支配の一形態である家産制 (→家産制国家 ) のもとで,国王もしくは君主の世襲的財産の維持,拡大にあたる官僚制組織をいう。家産制的支配は,没主観性を一般的特質とする近代の合理的な官僚制的支配と正反対の組織原理によって構成されているが,西欧の中世から近代にいたる歴史においては,経済社会の発展に対応した「君主の官僚制」の拡充を通じて,徐々に合理化を余儀なくされていった。なお最初の家産官僚制として典型的なものは,古代エジプトにおいてみられる。
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世界大百科事典(旧版)内の家産官僚制の言及
【家父長制】より
…たとえばモンテスキューは,中国の専制政治が家庭内の隷属関係を支えとして成り立っているとし,ヘーゲルもまた,中国人を家庭に隷属し,孝悌の倫理に支えられた国家に隷属するという二重の意味で自由なき存在ととらえた。M.ウェーバーは中国を家父長制支配の展開形態である家産官僚制国家の一類型として理解した。ウェーバーの家産官僚制の概念は封建制と対立する一面をもち,後者の双方的主従関係に対し,家父長の家族に対する,あるいは君主の臣下に対する一方的関係を特質とする。…
【官僚制】より
…
[ウェーバーの官僚制論と問題点]
ウェーバーによれば近代官僚制とは,組織に必要な活動が合理的に分業化され,法規の定める権限によってそれを執行する力が与えられること,階統制(ヒエラルヒー)と呼ばれるピラミッド型構成がとられ,これにより上命下服の関係が体系化されること,専門の原則が支配し,職員の採用は専門能力の有無によって決定され,世襲や情実による採用が排除されるとともに,いったん採用された職員はその地位を保障され,昇進制が確立されること,および職務の執行にあたり職員には私情を抑えることが強く求められ,不公平な取扱いが回避されること,などの合理性をもった組織であるとされたのである。 このような編制方法が合理的であるとされるわけは,ウェーバーにより近代官僚制と対置された家産官僚制の特質をみることによって明らかとなるであろう。もっとも,ウェーバー自身は,古代エジプトおよび中国の事例に言及した場合を除き,家産官僚制という用語を避けている。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」