家(いえ)を代表する者。家という制度体が世代を超えて幾代も存続し繁栄するようにという目的を追求すべく、先代家長よりその役割を受け継ぎ、次代家長にその役割を継承させる、という任務をもった家成員の1人である。家長は主婦たる妻に補佐され、夫婦協力して家の全成員を統率し、家産に基づく家業の経営、家の先祖の祭祀(さいし)を含む家事の運営を遂行した。家産の管理は、家業・家事の経営とともに家長の重要な任務であるが、家産は、その家という制度体の所有であって、家長個人の私有とは考えられていなかった。
明治の民法で戸主とよばれた家長が戸主権により家産を所有し、家督相続者たる長男がその戸主権を継承することになり、これとは独立な親権や夫権と相まって、法的に強大な権力をもつに至った。明治の民法以前の日本の家長は、庶民の家に関する限り、西欧の家父長のような恣意(しい)的権力を許されず、家を内外に代表し、家の永続繁栄のため率先して献身することを、その家の内外から期待され要求される存在であった。
[中野 卓]
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…しかし,日本の家父長権はそんなに強かったか。日本の場合,家長権と父権は切り離して考えるべきであろう。中国では父親そのものが絶対的権威であった。…
…性的差異が性差別に転化している点で現代と古代は変りなく,家父長制は決して過去のものとはいえない。【厚東 洋輔】
[ローマ,ゲルマン]
家族の中で家長(男系尊属。多くは父,ときに祖父,曾祖父)が他の家構成員に対して強い権限を有する家族のあり方は,近代に至るまで,その権限に違いはあるが,ヨーロッパ世界にも広く見いだされる。…
…このような戸の制度は,朝鮮諸国を媒介にして日本にも継受され,6~7世紀ごろ,朝鮮からの帰化系氏族を朝廷に組織する際に,〈部〉とは異なる新しい組織原理として,〈戸〉の制度が施行されたと推定される。中国律令では,同居共財の家をそのまま戸とする原則であり,日本律令も〈家長を以て戸主とせよ〉という唐律令の規定をそのまま継受するが,古代日本の家や家長のあり方は,中国とはいちじるしく異なっていた。豪族層では,家は家長を中心とする一つの経営体として存在していたと考えられるが,庶民層では,夫婦と子どもからなる小家族が一般には複数集まって生活しており,家長がはっきりとは存在していなかった可能性が強い。…
※「家長」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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