2013年に登録された世界遺産(文化遺産)。富士山は、日本一の標高と荘厳な円錐形を誇る独立峰の成層火山で、日本の象徴として世界的にも知られている。古代から霊峰として信仰の対象とされ、『万葉集』『竹取物語』をはじめ数多くの文学作品の題材となり、室町時代以降の絵画作品、工芸、庭園などのモチーフとされ、多くの芸術作品を生み出してきた。特に葛飾北斎の浮世絵『富嶽三十六景』はその代表であり、西洋の芸術家にも影響を与えた。周囲には神社や登山道、洞穴、樹海、湖沼があり、溶岩によって形成された広い裾野には広大な原始林、溶岩洞穴群、溶岩樹型群、湧水群などがあり、その文化的・地学的価値は高い。室町時代に登山道が開かれ、多くの庶民が詣で、江戸時代には信徒組織「富士講」が組織され、現在でも国内外の多くの登山者が訪れる。ユネスコに提出された推薦書原案では、富士山を日本と日本の文化を象徴する「名山」とし、「信仰の対象」「芸術の源泉」と位置づけ、構成資産を富士山域や富士五湖など25件とした。2013年4月、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)が6月にカンボジアで開かれる世界遺産委員会で富士山を文化遺産として登録するよう勧告。名称は「富士山」から「富士山と信仰・芸術の関連遺産群」へと変更し、構成資産のうち三保松原を除いた上で登録すべきという条件付きの勧告だった。日本政府は、2012年12月時点で「三保松原は欠かせない要素」として除外を拒否したが、富士山から45 km 離れた三保松原を構成資産にするのは無理があるということで除外が再度勧告された。これに対して、日本側は最後まで理解を求め、結果的に三保松原も含む形での世界遺産登録がなされた。また最終登録名は「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」となった。◇英名はFujisan, sacred place and source of artistic inspiration