日本大百科全書(ニッポニカ) 「小児外科」の意味・わかりやすい解説
小児外科
しょうにげか
15歳未満の小児のうち、おもに新生児(生後4週間以内。まれに1か月以内をさすこともある)、乳児(生後12か月以内)、および幼児(6歳まで)の外科的疾患の診療にあたる外科系専門診療科をいう。洋の東西を問わず、小児外科(日本)、小儿外科(中国)、pediatric surgery(英米)、Kinder Chirurgie(ドイツ)は、いずれも小児の一般外科を意味し、おもに内臓の先天性形態異常、すなわち先天性食道閉鎖、先天性横隔膜ヘルニア、先天性腸閉鎖、先天性胆道閉鎖、直腸肛門(こうもん)奇形、先天性腹壁破裂、ヒルシュスプルング病、鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)、先天性肺疾患などのほか、肥厚性幽門狭窄(きょうさく)症、腸重積症、固形悪性腫瘍(しゅよう)(神経芽腫、ウィルムス腫、肝悪性腫、奇形腫、横紋筋肉腫など)など、多様多岐にわたるこの時期特有の外科的疾患の診療を行う。「赤ちゃんは大人のミニチュアではない」といわれているように、小児、ことに新生児・乳児の身体は、大人とは非常に異なった生理を営んでいる。したがって、なんらかの疾病にかかっている小児の診療にあたっては、この特異性に十分な配慮をし、この時期特有の種々な疾病の治療をする必要がある。こうした事情を背景にして、「内科」という臨床分野から小児を対象とする内科、すなわち「小児科(小児内科)」という臨床分野が生まれ、「外科」から「小児外科」という臨床分野が派生したわけである。いいかえるならば、大人の内科的疾患の診療を行う場が「内科」であり、外科的疾患の診療を行う場が「外科」であるのと同様の関連が、「小児科(小児内科)」と「小児外科」の間にあるといえる。
世界的にみて、小児外科ないし小児外科医という概念が生まれたのは1900年前後であるが、近代小児外科の基盤ができたのは1920年代であり、アメリカのウィリアム・ラッドWilliam Laddならびにイギリスのデニス・ブラウンDenis Brownに負うところが大きい。この人たちの教えを受けた外科医(小児外科医)が、アメリカやヨーロッパ諸国で現代の小児外科を開花させた。しかし、真に急速な進歩発展をみたのは第二次世界大戦以後といわれている。一方、わが国では欧米先進国に遅れること二十数年、1950年代になって初めてこの概念が導入され、二、三の先駆的外科医の努力によってその萌芽(ほうが)をみた。その後、この新しい臨床分野は、医療従事者だけでなく、広く一般社会の人々にもすこしずつ認識されるようになり、その学問的討議の場として、日本小児外科学会(1964設立)、専門診療の場として国立小児病院(1965開院)外科、順天堂大学附属順天堂医院小児外科(1966開設)などが生まれた。以後、わが国の小児外科の学問および実地診療両面での充実発展は急速で、今日、その学問的水準は欧米先進諸国のそれに比肩しうるまでになっている。また、全国主要都市のほとんどでは、小児外科の専門診療を受けることが可能となっている。これに伴い、1978年(昭和53)10月には、医療法上の診療科目として「小児外科」が認可され、1979年5月から日本小児外科学会による小児外科認定医制度が発足している。2000年1月現在、この小児外科認定医を目ざす外科医を指導するための小児外科指導医215名および小児外科認定医397名が全国に存在している。また、2000年1月現在、同制度に基づき、小児外科診療に関する能力、設備の両面において一定以上の水準にある、全国で100か所の施設・病院が、小児外科認定施設として日本小児外科学会から認められている。
[平井慶徳]