少年による犯罪。犯罪という語が広狭さまざまの意味に用いられるのに応じて、少年犯罪の用語法も一定しないが、通常は、刑法学にいう広義の犯罪(構成要件に該当する違法な行為。触法行為を含む)を少年(20歳未満。性別は不問)が行った場合をいう。これより狭く、刑法学上の狭義の犯罪(構成要件に該当する違法・有責な行為)に範囲を限定することもあれば、それより広く、虞犯(ぐはん)行状をも含む少年の非行一般の意味にこれを用いることもある。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
少年は、心身ともに成育過程にあって精神的に動揺しやすい状態に置かれており、環境に対する適応障害を生じて逸脱行動に走りがちな時期にあるとされている。それだけに、社会の政治的・経済的・文化的諸条件に敏感な反応を示し、少年は社会を映す鏡であるともいわれている。現代社会は、物質文明の高度な発達に伴い、その構成がきわめて複雑化し、価値観も多様化しており、社会的逸脱行動としての犯罪(非行)を誘発する諸条件の増大傾向がほとんど常態化しているといわれてきた。また、少年犯罪の増勢は世界的な問題であるともされてきた。一般的にいって、日本は、先進諸国のなかで治安の行き届いた国の一つとされてはいる。ただし、少年犯罪について、少年の刑法犯だけをみても、1946年(昭和21)当時に比べ、もっとも増加した1983年(昭和58)に検挙人員数は約3倍、その人口比(10歳以上20歳未満の少年人口10万人当りの検挙人員の比率)では約2.5倍となった。これに対し、成人の刑法犯の場合は、検挙人員数で約3倍(2005。ピーク時)にまで増加したものの、人口比(20歳以上の成人人口10万人当りの検挙人員の比率)では1.5倍(1970。ピーク時)にとどまっている。
しかし、近年、少子化も一つの背景として少年犯罪はもっぱら減少傾向にある。1946年当時と比較しても、検挙人員数は約8万人も減り、人口比も約4割にまで減少している(2020)。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
第二次世界大戦後の少年犯罪の動向は、3期に分けてその特徴を指摘することができる。
第1期は昭和20年代で、検挙人員数は1951年(昭和26)に一つのピークに達する。敗戦直後の社会的混乱と経済的窮乏とを背景にして財産犯が多く、両親もしくは一方の親がいないなどの理由で経済的に恵まれない少年の犯罪が目だっている。
第2期は、急激な経済的復興に伴う社会の都市化、家庭・職場・余暇活動の場の分化が進み、人身に対する犯罪、とくに粗暴犯や性犯罪の多発が特徴的である。1964年にピークを示し、1966年5月、法務省は「少年法改正の構想」を発表したが、経済的安定期に入って事態は沈静する。
第3期は、1970年前後(昭和40年代の後半)から1990年代の初めである。その一般的特徴として、少年犯罪(非行)の普遍化(貧困家庭の少年に限られない犯罪・非行の状況)、低年齢化、遊び型・享楽的犯罪(非行)の増加、女子の犯罪(非行)の増加などが指摘される。とくに1983年(ピーク時)における窃盗の検挙人員数は1970年当時の2倍以上に達し、その激増が時代の現象的特徴をなしている。また、一般社会からの逃避・離脱の傾向を示す現象、すなわち反社会的というよりは非社会的な心理的機制による犯罪(非行)も目だち、薬物乱用、家庭内暴力・校内暴力などが問題になった。
なお、1992年(平成4)から、第4期に入ったと論じる者もみられた。その少年犯罪(非行)の特徴として、凶悪犯・粗暴犯の増加、薬物汚染の拡大、低年齢化の定着傾向、また、突発的・短絡的・模倣的な犯罪(非行)の増加などが指摘された。その社会的背景には、インターネットや携帯電話などによる情報化の進展、少年たちの保護者世代の規範意識の変化、子供の性の商品化を助長する産業の拡大などがあるのではないか、とされていた。
このような流れを巨視的にとらえて、1945年から1964年までの20年間は少年における「生存の論理」の時代、1964年から1988年までの25年間は「反抗の論理」の時代、それ以後は「衝動の論理」の時代であるとし、自己感覚、他者感覚、社会的規範軸の喪失による空洞化した世代が、成熟社会のもとで、自分本位の快楽原理充足手段として無規範型非行を生み出すようになったという見解(清永賢二、1943― )もある。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
法律的には同一の評価を受けるべき行動があったとしても、少年の場合と成人の場合とでは、その原動力をもたらす内部的世界の性質はまったく別のものでありうる。その行動が少年における犯罪性の早期発現を意味することがないわけではないが、その多くは、少年の社会的未成熟または生活環境の影響による一過性の現象、少年時代のエピソードたるにとどまる。したがって、その一般的な対策および個別・具体的な措置において、成人に対する場合と異なる特別の配慮のあるべきことが要求される。少年法による対応を制度的基軸にして、少年の健全育成が図られるわけである。しかし、非行における「生存の論理」の時代に理想的とされた制度形式が、そのままで「衝動の論理」の時代に通用しうるものかどうか、この点も含めて、より現実的な政策・対策・対処行動のあり方も問われている。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
『檜山四郎著『戦後少年犯罪史』(1988・酒井書店)』▽『間庭充幸著『若者犯罪の社会文化史――犯罪が映し出す時代の病像』(1997・有斐閣)』▽『清永賢二編『少年非行の世界――空洞の世代の誕生』(1999・有斐閣)』▽『土井隆義著『少年犯罪「減少」のパラドクス』(2012・岩波書店)』▽『鮎川潤著『少年犯罪――ほんとうに多発化・凶悪化しているのか』(平凡社新書)』
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