少年法により定められる、家庭裁判所の審判に付すべき「非行のある少年」。20歳未満の者(性別は不問)をいい、講学上、犯罪少年、触法少年および虞犯(ぐはん)少年に区別される。児童福祉法の定義による少年(小学校就学の始期から満18歳に達するまでの者)とは年齢区分が異なる。また、民法上の成年年齢にも該当する18歳・19歳の者は少年法上、特定少年とよばれる。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
犯罪少年とは「罪を犯した少年」、すなわち刑法学にいう犯罪を行った少年をいい、刑事責任年齢などとの関係で、14歳以上の者に限られる。統計上、14、15歳の者を年少少年、16、17歳を中間少年、18、19歳を年長少年ということがある。犯罪少年はすべて家庭裁判所の保護手続(少年事件を受理してから調査・審判を経て終局決定を行うまでの手続)で扱われる。保護手続は刑事訴訟法が規定する刑事手続とは別のものなので、この手続で刑罰が科されることはなく、また、犯罪の成否とは無関係な刑事手続・刑事処分上の制約に拘束されることもない。たとえば、刑法で親告罪とされる犯罪について告訴がなくとも少年の審判は可能であり、また、親族相盗例(財産罪が親族間で犯された場合の特例)により必要的に刑が免除されるような場合でも、少年法上の保護処分を行うことに差し支えはない。もっとも、少年の犯した罪が死刑、懲役または禁錮にあたり、しかも罪質および情状に照らし刑事処分が相当であると家庭裁判所が判断したときは、犯行時にその少年が14歳以上の年齢に達していたことを条件として、事件を検察官に送致し、科刑の手続にこれをゆだねることも認められている。ただし、そこで下される刑事処分については特別の配慮がある。たとえば、犯行時18歳未満の者に対しては、「死刑をもって処断すべきときは無期刑を科する」(少年法51条1項)、「無期刑をもって処断すべきときであっても、有期の懲役又は禁錮を科することができる。この場合において、その刑は、10年以上20年以下において言い渡す」(同条2項)などである。なお、犯罪少年である特定少年は、検察官送致決定および保護処分決定に際して、18歳未満の少年とは異なる取扱いを受ける。特定少年の場合には、罪種の制限がないなど18歳未満の少年と比べてより検察官送致決定を受けやすくしているとともに、保護処分決定の種類・方法も18歳未満の少年と異なっている。
触法少年とは「14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年」をいう。行為時に刑事責任年齢に達していなかったという点で犯罪少年と区別される。14歳未満の者については児童福祉法上の取扱いが優先され、家庭裁判所は、都道府県知事または児童相談所長からの送致がなければ、保護手続を進めることができない。もっとも、14歳未満で刑罰法令に触れる行為をしたが、その取扱いが問題になった時点ではすでに14歳に達していたという場合は、定義上は触法少年であるが、家庭裁判所が独自にその審判を行うことが可能と解されている。
また虞犯少年とは、いわゆる虞犯事由があって、しかも「その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞(おそれ)のある少年」(虞犯性が認められる少年)をいう。少年法が虞犯事由として掲げるのは、保護者の正当な監督に服しない性癖のあること、正当な理由がなく家庭に寄り付かないこと、犯罪性のある人もしくは不道徳な人と交際しまたはいかがわしい場所に出入りすること、および、自己または他人の徳性を害する行為をする性癖があることである。そのいずれかに該当し虞犯性が認められる少年は、14歳未満であれば児童福祉法上の措置に、14歳以上18歳未満であれば児童福祉法上の措置または少年法上の取扱いにゆだねられる。特定少年には虞犯少年の規定は適用されない。
虞犯事由にかかわる個々の行状(一連の行為)は、少年法の講学上、虞犯行状といわれ、少年の犯罪行為、触法行為と並ぶ「非行」の一種とされているが、これとはまた別に、「不良行為」という用語で理解されることがある。「少年警察活動規則」では、少年補導の対象として、非行少年、要保護少年(非行少年には該当しないが、児童虐待を受けた児童、保護者のない少年その他の児童福祉法による福祉のための措置またはこれに類する保護のための措置が必要と認められる少年。18歳以上20歳未満の者を含む)のほかに、「不良行為少年」を問題にしている。ここでいう不良行為とは「飲酒、喫煙、深夜はいかい、その他自己又は他人の徳性を害する行為」のことである。形式だけからすれば、虞犯行状と類似しているが、不良行為少年には虞犯性が認められないという点で、結果的に、虞犯少年と区別される。また、児童福祉法でも不良行為ということばが使われている(「児童」とは18歳未満の者)。児童福祉施設の一種である児童自立支援施設は、「不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設」である。14歳未満の非行少年は原則として児童福祉法で扱われ、他方、少年法上の保護処分の一種に児童自立支援施設、児童養護施設への送致があるため、児童福祉法上の不良行為については少年警察活動規則の例よりも広い理解の仕方が許されることになる。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
未成年者に対する刑事政策的配慮は、非刑罰的な保護的処置の充実とその適用範囲の拡大という方向に働いてきた。1880年(明治13)の旧刑法のもとでは、刑事責任年齢は12歳とされ、8歳以上の者に対しては情状により16歳に達するまで懲治場(ちょうじじょう)(監獄の一部を利用した少年収容施設)に留置することができるものとし、12歳以上16歳未満の者が善悪の区別がつかずに罪を犯した場合も情状により懲治場に留置可能なものとした。この施設は、「尊属親」からの願い出があれば、満8歳以上20歳以下の「放恣(ほうし)不良の者(素行の悪い不良少年)」を収容して「矯正帰善」の措置を講ずる所でもあり、刑罰的なものではなかったが、刑余者(刑期を終えた者)の懲治にも使用されたので弊害も多く、当時の識者は、これとは別に感化事業が必要であることを力説した。1900年(明治33)制定の感化法は、8歳以上16歳未満の者を目安にして感化院における感化教育を行うことができるとし、さらに、1907年の現行刑法では懲治場の制度を廃止、これと併行して感化法を改正して、旧刑法下で懲治処分を受けるような少年はすべて感化院で扱うことにした。しかし、感化院だけでは問題のある少年に対処しきれない実状にあったので、1922年(大正11)、少年法および矯正院法を制定し、18歳未満で刑罰法令に触れる行為をした者や、するおそれのある者を保護処分の対象にすることができるようにした。刑罰法令に触れる行為をした少年ということでは、現行少年法上の犯罪少年、触法少年の観念が一括されている。ついで、1933年(昭和8)には、感化法が廃止されて少年教護法が制定される。少年教護法で扱われるのは、14歳未満で不良行為をした者や、するおそれのある者であるが、少年法が行われていない区域では、18歳未満の者もこの法律による少年教護院入院を主軸とする教護処分の対象とされた。少年法が全国的に行われるようになったのは、1942年のことである。少年教護法は、1947年の児童福祉法に吸収される(少年教護院は、教護院に名称変更。さらに、1997年6月の児童福祉法改正に伴い、1998年4月より児童自立支援施設に名称変更)。ここで福祉的措置の対象とされる児童とは18歳未満の者である。そして、翌1948年、少年法が全面的に改正され、矯正院法は廃止、かわって少年院法が制定された。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
少年は時代・社会を映す鏡であるという。しかも、非行の増加は先進諸国に共通の悩みであった。日本もその例外ではなく、第二次世界大戦後の刑法犯についてみるだけでも、そのときの社会的・経済的状況を反映しながら多少の変動はあるものの(検挙された少年数の少年人口比のピークが1951年に現れる第一波、それが1970年にみられる第二波、1983年の第三波)、ほぼ一貫して増加の傾向を示していた。第三波の特徴は、少年非行の低年齢化(年少少年の増加が著しい)、女子少年による非行の増加、窃盗・横領の激増などである。1984年以降の第三波の下降は、1995年(平成7)に止まり、1996年以降の一時期、少年非行はふたたび増加の傾向を示した。とくに粗暴犯・強盗の増加、およびとりたてて問題がないと思われていた少年がいきなり重大な非行を行う「いきなり型非行」の問題性が専門家から指摘されるに至った。自己感覚、他者感覚、社会的規範軸がそろって欠落する「空洞の世代」が育っているとされている。その後、2004年(平成16)以降には、もっぱら減少傾向が続いている。また、2000年代に入ってからはインターネットを利用した非行も目だっている。
このような第二次世界大戦後の動向のなかにあって、1966年ごろから、少年法改正論議が盛んになり、少年の人権保障を厚くし、保護処分の多様化・弾力化を図り、年長少年を別扱いにすることなどが検討されたが、とくに保護手続の刑事手続化が批判されて法律改正にまでは至らず、1977年以降、少年法の運用面におけるくふうが積極的に進められてきた。そして、1993年のいわゆる「山形マット死事件」(いじめにより中学生が体操用マットで窒息死したとされる事件)以降、少年審判の事実認定の「適正化」が論じられるようになったこと、および1997年の「神戸連続児童殺傷事件」でとくに被害者やその遺族に対する情報開示の必要性が主張されたことを受けて、少年法改正の動きが活発化し、2000年11月には改正少年法が議員立法により成立した(2001年4月施行)。また、2007年5月、2008年6月、2014年4月、2021年(令和3)5月にも少年法が改正され(それぞれ2007年11月施行、2008年12月施行、2014年5月(一部は6月)施行、2022年4月施行)、これら5度の改正を経て、少年非行対策は大きな転換期を迎えた。
[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]
『矢島正見著『少年非行文化論』(1996・学文社)』▽『法務省矯正局編『現代の少年非行を考える――少年院・少年鑑別所の現場から』(1998・大蔵省印刷局)』▽『清永賢二編『少年非行の世界――空洞の世代の誕生』(1999・有斐閣)』▽『萩原恵三編著『現代の少年非行――理解と援助のために』(2000・大日本図書)』▽『藤岡淳子著『非行少年の加害と被害――非行心理臨床の現場から』(2001・誠信書房)』▽『鮎川潤著『新版 少年非行の社会学』(2002・世界思想社)』▽『土井隆義著『「非行少年」の消滅――個性神話と少年犯罪』(2003・信山社出版、大学図書発売)』▽『北澤毅編著『リーディングス日本の教育と社会9 非行・少年犯罪』(2007・日本図書センター)』▽『小林寿一編著『少年非行の行動科学――学際的アプローチと実践への応用』(2008・北大路書房)』▽『土井隆義著『少年犯罪「減少」のパラドクス』(2012・岩波書店)』▽『岡邊健著『現代日本の少年非行――その発生態様と関連要因に関する実証的研究』(2013・現代人文社、大学図書発売)』▽『鮎川潤著『少年非行――社会はどう処遇しているか』(2014・左右社)』▽『鮎川潤著『少年犯罪――ほんとうに多発化・凶悪化しているのか』(平凡社新書)』▽『廣井亮一著『非行少年――家裁調査官のケースファイル』(宝島社新書)』
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