改訂新版 世界大百科事典 「少額貯蓄非課税制度」の意味・わかりやすい解説
少額貯蓄非課税制度 (しょうがくちょちくひかぜいせいど)
利子所得は所得税法上源泉で20%課税のうえ,他の所得と合算して総合課税を行うことが建前となっている。しかし貯蓄奨励と少額預金者保護の目的から,元本300万円以下の特定種類の貯蓄の利子は非課税扱いとすることが所得税法に規定されている。この制度を〈少額貯蓄非課税制度〉,通称マル優制度という。なお総合課税か分離課税かの選択ができる源泉分離選択課税制度もある。少額貯蓄非課税制度による非課税貯蓄の範囲は,(1)一般金融機関の預貯金(いわゆる勤務先預金を含み,郵便貯金を除く),(2)合同運用信託(金銭信託および貸付信託),(3)公社債(国債,地方債,政府保証債,利付金融債,社債等の債券)および証券投資信託となっている。本制度利用可能者は所得税法上所得納税の義務ある個人に限定されている。
預金利子非課税制度は,1921年8月施行の所得税法改正によって,はじめて郵便貯金,産業組合貯金および銀行貯蓄預金の利子が非課税とされた。その後,41年6月施行の国民貯蓄組合法によって,国民貯蓄組合の斡旋による元本3000円以下の銀行預金の利子が非課税とされ,また国民貯蓄組合の斡旋による銀行貯蓄預金,産業組合貯金は元本5000円以下が非課税とされた。63年4月施行の所得税法の改正によって少額貯蓄非課税制度が創設され,当初元本50万円以下であった。
少額貯蓄非課税制度は,〈少額国債特別非課税制度〉(国債購入による利子所得に対して少額貯蓄非課税制度とは別枠で300万円まで非課税扱いとする制度,特別マル優制度と通称)や勤労者財産形成貯蓄制度(〈財形制度〉の項参照)とともに,国民の貯蓄促進に寄与している。また,郵便貯金は貯金者の預入限度額が300万円で,簡易で確実な国民大衆の貯金手段であるという制度の本旨を斟酌(しんしやく)し,貯蓄奨励の見地から非課税とされている。しかし日本の貯蓄率は高く,経済が高度成長から安定成長に移行し,国民の少額貯蓄を非課税で奨励することの意義は乏しくなっており,かつ限度管理のむずかしさがある。一方,財政は巨額の赤字であるので,少額貯蓄非課税制度の廃止,郵便貯金の課税問題が1984年ころから論議されるに至った(88年4月,この制度はシルバー・マル優を除き廃止となった)。
執筆者:後藤 新一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報