1952年に公布施行された貸付信託法に基づく信託で,合同運用指定金銭信託の一種である。現在信託銀行7行のみが取り扱っている。貸付信託制度はおもに,(1)電力,石炭などのエネルギー産業をはじめとする基幹産業に対する資金配分の必要性,(2)1949年のドッジ・ラインに伴う徴税攻勢を忌避した退蔵資金を吸収する必要性,(3)第2次大戦後経営不振に陥っていた信託銀行を救済し,信託制度の復興をはかる必要性,から生まれた。これらの必要性を満たすため貸付信託受益証券制度が創設され,信託の実債配当主義を活用して,規制金利外の高利配当が認められ,当初は2年もの年8.8%,5年もの9.5%の高配当が行われた。この高利回りは踏襲され,今日でも貯蓄商品のなかで高い利回りを誇っている。貸付信託の元金は信託銀行が保証しており(元本補塡(ほてん)),そのための準備金として特別留保金を信託財産のなかに積み立てている。期間別には2年ものと5年ものの2種類があるが,大半が利回りの高い5年ものである。信託期間中に資金が必要なときは,貸付信託を担保にして必要資金を借り入れる方法と,貸付信託の受益証券(または貸付信託通帳)を信託銀行に持参して買取りを依頼する方法とがある。また信託総合口座を利用して資金融通を受けることもできる。この信託総合口座は,銀行の総合口座同様,公共料金やクレジット・カードによる買物等の代金などの自動引落しにも利用できる。貸付信託は,合同運用指定金銭信託の一種であるから,税制上収益金は利子所得とされ,マル優および源泉分離課税の扱いができる。貸付信託の収益金は半年ごとに支払われるが,収益金を貸付信託に再投資し,満期時に元利金を一括して受け取るもの(収益満期受取型)が〈ビッグ〉(変動金利)の愛称で81年発売された。ビッグは,個人マル優(少額貯蓄非課税制度)専用の貸付信託で,マル優枠いっぱいまで元本を預け入れても収益金が非課税となる利点もあって人気を集め,信託銀行の代表的商品となっている。貸付信託には無記名式もあるが,マル優利用の便宜性から記名式の利用が多い。貸付信託は当初,電力,鉄鋼,海運等の基幹産業にもっぱら融資されていたが,今日では,産業全般のほか,住宅建設や社会開発等の広範な分野に対し資金供給を行っている。
→信託
執筆者:山田 昭
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1952年(昭和27)6月14日公布・施行の貸付信託法によって制度化された合同運用指定金銭信託の一種。貸付信託の仕組みは、信託銀行(受託者)が、金銭を委託する者(委託者兼受益者)に受益証券を発行し、受託した金銭をおもに長期貸付または手形割引の方法により合同して運用し、それから得られる収益を受益証券の所有者に配当するものである。従来の合同運用指定金銭信託と異なる特徴は、(1)信託受益権を受益証券化し流通性を付与したこと(証券取引法を改正し有価証券として法認。証券取引法は2007年の改正法施行により金融商品取引法に改名)、(2)受託期間は2年と5年(当初は1年もあった)、受託金額は1万円(当初は5000円)の倍数、内閣総理大臣の承認を受けた信託約款の適用、というように契約を画一化することによって処理を容易にしたこと、(3)運用は法律の目的に添った融資対象への貸付または手形割引に限定したことにある。受益証券は無記名式が原則で、これは有価証券として流通可能なのであるが、現実には記名式を希望する委託者が圧倒的に多かったため、記名式にも受益証券発行後1年以上経過すれば受託者が買い取る道を開き、換金を容易にした。制度発足時には5年もの年9.5%の高利回りを掲げ、元本保証、換金性を備えた有利な金融商品として注目された。貸付信託は第二次世界大戦後の長期金融制度確立の一環をなすもので、民間から長期安定資金を吸収し、戦後の復興に必要な基幹産業へ長期資金・設備資金を供給する役割を果たしたが、同時に、戦後弱体化していた信託銀行育成の見地から、信託銀行だけに認められ、戦後の金融界において信託銀行発展の原動力となった。なお、1971年4月の貸付信託法の改正により、貸出対象業種の制限は事実上撤廃され、有価証券への運用が認められることとなった。
[麻島昭一]
『麻島昭一著『日本信託業立法史の研究』「第6章」(1980・金融財政事情研究会)』
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