岩波書店(株)(読み)いわなみしょてん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「岩波書店(株)」の意味・わかりやすい解説

岩波書店(株)
いわなみしょてん

1913年(大正2)岩波茂雄が創業した出版社。初め古書店として開業したが、1914年夏目漱石(そうせき)の『こゝろ』を刊行して出版業を営むようになり、『哲学叢書(そうしょ)』をはじめとする各種の学術書や『漱石全集』『芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)全集』『日本資本主義発達史講座』などを刊行。校正、印刷、製本などすべてゆるがせにしない出版社として信頼を博するようになった。「東西古今の典籍」をモットーとして1927年(昭和2)から刊行された岩波文庫軍国主義への批判を込めて1938年から発行された岩波新書は、いずれも知識層に大きな影響を及ぼすシリーズに成長した。しかし、戦火の拡大に伴い思想弾圧が激しくなり、1940年、すでに十数年前に刊行され、画期的な日本史研究として定評を得ていた津田左右吉(そうきち)の『神代史の研究』『古事記及日本書紀の研究』『上代日本の社会及思想』などがいまさらのように発禁とされ、著者と発行者が起訴される事態にまでなった。戦時中多くの出版社は時流に便乗した図書を刊行し、それらの紙型(しけい)は敗戦とともに反故(ほご)となったが、同書店の出版物は厳密な学術書が中心だったため、そのほとんどが戦後復刊に耐えうる内容のものであった。1946年(昭和21)1月、総合雑誌『世界』を創刊。現在同書店からは社会科学、自然科学の双方にわたり、多数の書籍が刊行され、学術雑誌では『思想』『科学』、辞書では『広辞苑(こうじえん)』などが刊行されている。なお1933年創刊の雑誌『文学』は2016年(平成28)の11・12月号をもって休刊となった。

[海老原光義 2019年4月16日]

『紅野謙介他著『物語岩波書店百年史』全3巻(2013・岩波書店)』『『岩波書店百年』(2018・岩波書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例