出版経営者。明治14年8月27日長野県に生まれる。日本主義の思想家杉浦重剛(しげたけ)を慕って日本中学校に学ぶ。第一高等学校に入学したが、人生問題に煩悶(はんもん)したすえ退学。東京帝国大学哲学科選科を卒業後、神田女学校教師となったが、まもなく辞職。1913年(大正2)神田に古書店岩波書店を開業した。当時の商慣習に反して正札販売を行い信用を得た。夏目漱石(そうせき)の知遇を受け、1914年『こゝろ』を出版し、出版業に乗り出す。翌1915年には一高以来の友人安倍能成(よししげ)、阿部次郎らが編集、執筆した『哲学叢書(そうしょ)』を刊行。1917年、最初の『漱石全集』を刊行するなど着々と出版界に地歩を固めた。昭和初期には円本(えんぽん)ブームをしり目に、ドイツのレクラム文庫に範をとり、東西の古典普及を目ざす岩波文庫を刊行。このほかにも多くの全集、講座、学術書を出版し、文学、社会科学、自然科学にわたる総合的出版社をつくりあげた。彼の周辺には多くの文学者や学者が集まり、「岩波文化」とも称される独自の出版文化が築かれた。1946年(昭和21)2月戦後初の文化勲章受章。同年4月25日死去。
[有山輝雄]
『安倍能成著『岩波茂雄伝』(1957・岩波書店)』
岩波書店の創業者。長野県生れ。諏訪実科中学4年のとき,杉浦重剛を慕って上京,日本中学を経て第一高等学校に入学したが,人生問題に悩んで退学。のち,東京帝国大学哲学科選科に入り,倫理学を学んだ。卒業後しばらく女学校の教師をつとめたが思うところあって辞職。1913年東京神田に古書店を開業した。翌14年夏目漱石の知遇をうけ《こゝろ》を出版,本格的に出版業に転じ,《哲学叢書》や漱石全集を刊行。内容はもとより造本,校正などの厳密な出版社として高く評価されるまでに育て上げた。27年には〈岩波文庫〉を創刊,多くの読者から支持された。しかし,戦争の拡大とともに,言論統制は古典や学術書にまで及び,同書店でも多くの文庫や単行本が重版不可能または発売禁止となった。津田左右吉の《古事記及日本書紀の研究》《神代史の研究》までが発禁となり,著者とともに発行者岩波も起訴されるという苦難の時期を送ったが,学問尊重の編集方針を終始くずすことがなかった。戦後46年,出版人として初の文化勲章をうけた。
執筆者:海老原 光義
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大正・昭和期の出版人 岩波書店創業者;貴院議員。
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1881.8.27~1946.4.25
大正・昭和期の出版人。長野県出身。東大卒。1913年(大正2)古本屋として岩波書店を創業。翌年夏目漱石と知り合い「こゝろ」を出版する。15年西田幾多郎(きたろう)らとの縁によって「哲学叢書」を出版し,出版社としての基盤を築く。40年(昭和15)津田左右吉(そうきち)の筆禍事件で発行者として起訴された。45年貴族院議員。
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出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
…岩波書店発行の月刊総合雑誌。第2次大戦の敗戦直後,岩波茂雄は,戦争への反省から,国民の間に批判精神を培う月刊雑誌の必要を痛感し,友人安倍能成らのすすめもあって,1946年1月創刊した。初代編集長吉野源三郎は,占領下,アメリカ一辺倒になりがちな情報をひろく世界にもとめ,平和と民主主義を基調とするこの雑誌の性格を確立した。…
…1940年(昭和15)2月10日,歴史学者津田左右吉の日本神話および上代史に関する4著書,〈《神代史の研究》〉(1924年2月),〈《古事記及日本書紀の研究》〉(1924年9月),〈《日本上代史研究》〉(1930年4月),〈《上代日本の社会及び思想》〉(1932年9月)が発禁処分となり,3月8日津田と発行者岩波茂雄が出版法第26条(皇室ノ尊厳冒瀆)の疑いで起訴され,42年5月21日有罪判決を受けた事件。事件の発端は,蓑田胸喜を中心として,権力中枢と結びついて国粋主義の宣伝をしていた原理日本社とその機関誌〈《原理日本》〉が津田に加えた攻撃であった。…
…目録による通信販売は,すでに1890年に行われている。明治時代,古書の値段は客に対して〈かけひき〉をするのが通例であったが,1913年に岩波茂雄が正価販売を実行してから,漸次追随する者が出てきた。大正時代は古典の再評価が進んだため,古書界は好況で,震災後もいち早く復興,昭和に入るとデパート古書展も開催されるようになった。…
※「岩波茂雄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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