日本大百科全書(ニッポニカ) 「岩田宏」の意味・わかりやすい解説
岩田宏
いわたひろし
(1932―2014)
詩人、ロシア文学翻訳家。本名・小笠原豊樹(おがさわらとよき)。北海道虻田(あぶた)郡東倶知安(くっちゃん)(現、京極町)生まれ。東京外国語大学ロシア語科中退。学生時代、『マヤコフスキー詩集』(1952)を訳す。1955年(昭和30)より東京神田神保町(じんぼうちょう)にある青木書店に勤務し、『独裁』(1956)、『いやな唄(うた)』(1959)で第二次世界大戦後の詩壇に登場した。繰り返し(ルフラン)、押韻の多用、語呂合わせ、ユーモアと皮肉、風刺のきいた詩風で知られる。『いやな唄』所載の「神田神保町」は個人的体験によりながら日常を風刺をもって描き、戦後の1950~1960年代の都市生活者の心情に通じている。『頭脳の戦争』(1962)中の「感情的な唄」など、音の類似から導き出されることばの連鎖は、文脈から切れたときの語の裸形、混沌(こんとん)を垣間(かいま)見せる。『詩画集 グアンタナモ』(1964)、『岩田宏詩集』(1966)以後、行分け詩は少なくなり、ジャンルを越えた幅広い活動に移る。その間の事情はエッセイ集『いただきまする』(1978)に詳しい。短編集に『社長の不在』(1975)、長編小説に『踊ろうぜ』(1984)、『ぬるい風』(1985)、『なりななむ』(1987)、『息切れのゆくたて』(1990)、『カヨとひろ子』(1992)、『九(ここの)』(1998)など。エッセイ集に『同志たち、ごはんですよ』(1973)、『雷雨をやりすごす』(1994)などがある。『渡り歩き』(2001)では、独自の足場から旅行先や日常の風景、書物の印象を鮮やかに切り取っている。本名でソルジェニーツィン『ガン病棟』(1969)、『マヤコフスキー選集1~3』(1972~1973)、プレベール、アーウィン・ショーの翻訳がある。
[陶原 葵]
『『詩画集 グアンタナモ』(1964・思潮社)』▽『『現代詩文庫 岩田宏詩集』(1968・思潮社)』▽『『同志たち、ごはんですよ』(1973・草思社)』▽『『社長の不在』(1975・草思社)』▽『『新選岩田宏詩集』(1977・思潮社)』▽『『いただきまする』(1978・草思社)』▽『『踊ろうぜ』(1984・草思社)』▽『『ぬるい風』(1985・草思社)』▽『『なりななむ』(1987・草思社)』▽『『息切れのゆくたて』(1990・草思社)』▽『『カヨとひろ子』(1992・草思社)』▽『『雷雨をやりすごす』(1994・草思社)』▽『『九(ここの)』(1998・草思社)』▽『『渡り歩き』(2001・草思社)』▽『大岡信著『現代詩人論』(講談社文芸文庫)』