日本大百科全書(ニッポニカ) 「川釣り」の意味・わかりやすい解説
川釣り
かわづり
海釣りに対して淡水魚の釣り全般をいう。釣り人の間では、対象魚の名前をつけ、アユ釣り、コイ釣り、フナ釣りなどといった表現をすることも多い。また、釣り場により、川釣り、清流釣り、渓流釣り、湖沼の釣りという表現もする。
狭義の川釣りは、平野部の川で釣るもので、コイ、マブナ、ヘラブナ、テナガエビなどが対象である。潮の干満の影響を受ける河口近くも川釣りの一部であるが、釣れてくる魚が海水魚のクロダイ、スズキ、ボラ、ハゼのときは、川釣りとはよばず対象魚名をつけるのが一般的である。
清流の釣りは、やや上流域で、アユやウグイ、オイカワ、放流魚のニジマスを釣ることをいう。川釣りと清流釣りの明確な境界線はとくにないが、比較的水色がよく、大石が点在したり、瀬があったりするあたりを清流という。
渓流釣りは、山あいを流れる川でイワナ、ヤマメ、アマゴを主体に釣る。渓流も下流域ではヤマメ、アマゴ、上流域ではイワナ釣りとなる。
湖沼の釣りは、標高の高い山梨県富士五湖などでは山上湖の釣りともいわれる。ヘラブナ、コイ、ワカサギ、オイカワ、ウグイがおもな対象魚であるが、北海道支笏(しこつ)湖、栃木県中禅寺湖、山梨県西湖(さいこ)、本栖(もとす)湖、神奈川県芦(あし)ノ湖では、地元漁業組合の稚魚放流によってヒメマスも釣れる。平野部の沼ではマブナ、ヘラブナ、コイ、タナゴ、テナガエビなどのほか、北海道の湿原ではイトウなどが釣れる。
こうした魚のなかで、アユ、イワナ、ヤマメ、ヒメマスは各都道府県の遊漁規則によって禁漁・解禁期間が決められている。その期間は、各都道府県あるいは釣り場によってまちまちである。
アユはほぼ6月1日解禁で晩秋まで釣れるが、水温上昇の遅れから魚の発育が遅い東北地方や秋田、新潟県の一部では7月解禁の所もある。イワナ、ヤマメ、アマゴは、ほぼ3月1日の解禁から初秋まで釣ることができるが、これも各都道府県により多少差異がある。禁漁期の設定は稚魚や産卵期の成魚を乱獲から守るためのもので、とくにイワナ、ヤマメ、アマゴについては、釣ってはならない魚の大きさ、つまり体長制限もある。こうした遊漁規則については各都道府県庁の内水面関係担当課、あるいは地元漁業組合に問い合わせるとよい。また、淡水魚を釣るときは、個人所有の湖沼、池などを除いて、ほとんど漁業権が設定されているので、地元漁業組合が各都道府県知事の認可を得て決められた遊漁料(入漁料)を支払わなければならない。欧米ではライセンス制が徹底していて、この入漁料はもちろん、1日に何尾まで釣ってもいいという制限尾数についても厳しく定められている。海外の釣りに出かけるときは、こうした規定を現地で事前に詳しく調べ、知っておく必要がある。
淡水魚の釣りを楽しむための支度は、対象魚に応じた竿(さお)、糸、鉤(はり)、餌(えさ)、オモリなどを用意する。竿はアユとヘラブナには、その魚を釣るのに向いたようにつくられた専用竿を使う。渓流竿といわれるものはイワナ、ヤマメ、ニジマス釣りに向く。日本古来の竹竿のほか、グラスファイバーや炭素カーボンを素材にして軽量で耐久力のある竿も登場し、1本の竿で多彩な魚を釣ることもできる。上手に竿を選べば、少ない本数で幅広く楽しむことができる。
欧米から日本に入ってきた、鉤に羽毛を巻き水生昆虫類に似せたり、水面を飛び交う虫に似せた毛鉤(フライ)でのフライ・フィッシング、金属やバルサ材を素材に小魚などの動きをみせるルアーでのルアー・フィッシングも専用竿が必要である。この釣り方による対象魚は、渓流、湖のイワナ、ヤマメ、ブラックバス、ブラウントラウト、ライギョなど。
日本独特の釣りといわれるのはアユの友釣りである。アユが縄張り意識と闘争心をもつ習性を利用し、釣り人がおとりのアユを泳がせて、これに攻撃をかけさせるように誘って釣る。
川釣りの餌は、大別して動物性と植物性に分けられる。動物性のものはミミズ、赤虫(ユスリカの幼虫)、チシャの虫(ウシズラカミキリゾウムシの幼虫)、タマムシ(イラガの幼虫)などや、清流の石に付着しているカワゲラ、カゲロウ類の水生昆虫がある。植物性はサツマイモ、ジャガイモ、小麦粉などを加工したものがある。これらは魚の食性によって使い分けるが、清流の魚には水生昆虫、コイやフナには植物性と動物性を混合したもの、ヘラブナには植物性などがおもに向く。
[松田年雄]