日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワカサギ」の意味・わかりやすい解説
ワカサギ
わかさぎ / 公魚
pond smelt
Japanese smelt
[学] Hypomesus nipponensis
硬骨魚綱サケ目キュウリウオ科に属する魚。和名は「若い小魚」という意味。山陰地方や北陸地方では味がよいのでアマサギ(甘小魚)ともいう。体はアユのように細長くてやや側扁(そくへん)する。口は小さく、歯はやや鋭い。体は生時に半透明で、背面は黄色みを帯びた淡青色、側面と腹面は銀白色。全長15センチメートルになる。冷水魚で、天然では、太平洋側は千葉県以北、日本海側は島根県以北の沿岸、湖沼とそれに流入する河川に生息する。透明度の低い汽水性の栄養湖に適しているが、水温、塩分、濁りなどの変化に適応性が強い。陸封されやすく、卵での移殖も可能なので、本州の中・南部の天然湖、人工湖、溜池(ためいけ)などでも繁殖している。
餌(えさ)は、おもにミジンコ、キクロップス、ノロなどの動物性プランクトンや羽化期のユスリカを食べる。多くは生後1年で5~12センチメートルに成長して死ぬが、3、4年まで生きるものもある。成長状態は、生息密度が低かったり、水温が冬に高くて夏に低い年に良好である。
全長4.5センチメートルで生殖腺(せん)が肥大し始める。9月ごろから生殖腺が急に大きくなる。2~6月に湖や海の岸辺、またはそれに流入する河川の水草や砂に卵を産み付ける。産卵の適水温は5、6℃で、1尾がはらむ卵の数は普通2万粒前後である。おもに帆を利用した引網、投網(とあみ)、刺網、四手(よつで)網、釣りにより漁獲される。1年間の全国の漁獲量は近年2000~3000トンで推移し、北海道、青森、秋田、長野、茨城、島根などの諸道県が主産地である。沿岸で生活するワカサギはチカによく似るが、ワカサギは腹びれの起部が背びれの起部よりわずかに前にあること、両顎(あご)にとがった歯があることなどで区別できる。
[落合 明・尼岡邦夫]
釣り
初秋から早春まで楽しめる釣りとして人気がある。ボート釣り、陸(おか)釣り、桟橋釣り、そして湖が結氷すると、氷に穴をあけ、そこから糸を垂れる穴釣りがある。
地域によって結氷しない湖沼もあるので、釣り方はその土地と気象条件にあったものがくふうされてきた。ボート釣りは1メートル級糸巻付き竿(さお)またはリール竿で釣る。陸釣りは4.5メートルから5.4メートル竿でのウキ釣り。桟橋釣りも比較的長竿が有利である。
氷上に直径20センチメートルほどの穴をあけて釣る穴釣りは、25~40センチメートルの短竿に糸巻のついたものを使うのが普通である。穂先は、竹、カーボン、グラス、塩化ビニルなどで、ごく軟調子が向いている。
東北地方の一部では、三つも四つも穴をあけて棒ウキ仕掛けを投入し、のんびりウキの沈むのを待つ。竿は使っているが、魚信があったらウキの頭をつまみ、道糸をたぐる。また、竿先の感度を重視して、時計のぜんまいを加工した鋼の穂先を使う土地もある。
仕掛けは、枝鉤(ばり)が6~7本ついた胴付き仕掛けが、ボート、桟橋、陸、氷上の各釣りに共通して使える。関東地方や東北地方よりも、関西方面の陸釣りや桟橋釣りのほうが鉤数が多い。
餌は食紅で染めたサシ、ラビット、アカムシなど。ワカサギの泳層は早朝と夕方が上層、日中は底。竿先を小刻みに動かし、餌を踊らせておいて、すーっと竿先で誘い上げてくるのが基本的な釣り方である。
[松田年雄]
食品
脂肪が少なく、あっさりしたうま味をもっている。ほとんどの料理は骨ごと食べられるため、カルシウム源にもなる。てんぷら、フライ、塩焼き、つけ焼き、南蛮漬け、魚田(ぎょでん)、佃煮(つくだに)などによい。ワカサギはいたみやすいので、竹串(たけぐし)に刺して、焼きワカサギにすることも多い。郷土料理としては長野県の利久煮(りきゅうに)が有名。これは新鮮なワカサギを姿のまま、酒、しょうゆ、みりんなどでよく煮つめて飴煮(あめに)にしたもので、仕上げに白ごまをふる。島根県ではワカサギをアマサギとよび、「柳かけ(やなかけ)」というアマサギの茶漬けが知られている。ワカサギを素焼きにしたあと照焼きにして熱いご飯にのせ、熱い番茶あるいは煎茶(せんちゃ)を注いだもので、郷土料理の一つとして親しまれている。
[河野友美]