日本大百科全書(ニッポニカ) 「張天翼」の意味・わかりやすい解説
張天翼
ちょうてんよく / チャンティエンイ
(1906―1985)
中国の小説家、児童文学者。本名張元定(ちょうげんてい)、号は一之(いっし)、筆名に鉄池翰(てつちかん)などがある。湖南省出身。南京(ナンキン)で、没落した士大夫の子に生まれた。杭州(こうしゅう)の中学時代から『礼拝六(リーパイリユウ)』などに投稿。上海(シャンハイ)美術専門学校を経て北京(ペキン)大学に学び、ここで文学観を一新、学業を離れ杭州に戻り、小官吏などの職業を転々としながら実社会への認識を深めた。1929年『三日半の夢』が魯迅(ろじん)に認められた。手法の新鮮さと題材の豊富さで文壇から歓迎を受け、31年中国左翼作家連盟に参加、以後一貫して革命運動に同調、42年結核で筆を置くまで約100編の作品を書いた。短編に優れ、社会の底辺の人々の人生を正視し、小市民を風刺し、社会の暗黒を痛烈に批判する。代表作に『包氏父子(パオさんおやこ)』『華威(ホワウエイ)先生』など。解放後は『人民文学』の編集にあたり、著作は『宝の葫蘆(ひょうたん)の秘密』など児童文学と評論のみである。
[近藤龍哉]
『松枝茂夫・君島久子訳『宝のひょうたん』(岩波少年文庫)』▽『張天翼著、伊藤敬一・代田智明訳『まぼろしの金持ち鳥』(1977・太平出版社)』