弾性繊維(読み)だんせいせんい(その他表記)elastic fiber

翻訳|elastic fiber

改訂新版 世界大百科事典 「弾性繊維」の意味・わかりやすい解説

弾性繊維 (だんせいせんい)
elastic fiber

弾力繊維ともいう。結合組織を構成する大切な繊維成分の一つで,名のとおり弾力性に富む。弾性繊維は,おもにエラスチンelastinとよばれるタンパク質からなり,引っ張ると2~2.5倍くらいに伸び,力をとり去ると元に戻る。疎性結合組織の中では径0.2~1.0μmを示すが,弾性組織elastic tissueでは,もっと太く,かつ枝分れが多く,吻合(ふんごう)しあい,全体として網状にひろがったり膜状を呈したりしている。後者の場合をとくに弾性膜elastic membraneとよぶ。弾性膜は繊維の不規則な集まりであるためにあなが多く有窓膜とよぶこともある。とくに血管壁ではこの状態をとる。光を屈折するが,膠原(こうげん)繊維と比べて複屈折性ははるかに弱い。一般の染色では染まりにくいが,オルセイン染色,あるいはワイゲルトのレゾルシン・フクシン染色によって紫色に染色される。電子顕微鏡で見ると,均質無構造な基質とその中に埋められた径110Åの微細細繊維からなることが観察される。均質な部分がエラスチンとよばれるタンパク質で,ゴムによく似た性質をもつ。一方,微細細繊維は,グリシンとプロリンを含むことはコラーゲンと同じであるが,バリンを含むこと,およびイソデスモシン,デスモシンを含むのが特色である。弾性繊維は繊維芽細胞あるいは平滑筋細胞によって作られる。前駆物質であるトロポエラスチンtropoelastinがこれらの細胞の粗面小胞体内で合成され,細胞外に出される。エラスチンは,トリプシンによっては消化されないが,膵臓から出るエラスターゼによって消化される。弾性繊維は,特にウシなどのように首の重い四足獣の頸椎の棘(きよく)突起後頭骨を結ぶ項靱帯じんたい)や,脊椎の椎弓どうしを結ぶ黄色靱帯によく発達するほか,太い動脈の壁や肺胞壁に多量に存在する。とくに動脈の内弾性板や外弾性板に多い。これらはすべて弾力性に強い器官である。老化すると,弾力性が減じ,繊維の断裂やカルシウムの沈着がみられ,これを多量に含む血管はもろく硬くなる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「弾性繊維」の意味・わかりやすい解説

弾性繊維(化学)
だんせいせんい
elastic fiber

一般に細くて長い物質を繊維というが、それらのうち弾性を有する繊維をこのようによぶ。弾性のある繊維として糸ゴムがあったが、これは細い糸が得られず、染色も困難で耐久性も劣っていた。弾性繊維はこれらの欠点を改良したもので、アメリカのデュポン社よりライクラLycra(一般名スパンデックスSpandex)という商品名で発売されている。ポリエステルまたはポリエーテルで両末端をヒドロキシ基にした軟らかい部分と、ヒドラジンとをジイソシアナートで結合させたポリウレタン系線状構造の繊維である。他の繊維と混紡して肌着、海水着、スキーズボンなど広い分野に用いる。

[垣内 弘]

『岩田敬治編『ポリウレタン樹脂ハンドブック』(1987・日刊工業新聞社)』



弾性繊維(動物)
だんせいせんい

動物体内にあり、結合組織に含まれるゴム弾性を有する繊維をいう。同様に結合組織に含まれる膠原(こうげん)繊維に比べ、著しく大きな伸長性を示す。エラスチンというタンパク質よりなる。

 エラスチンは、グリシン、アラニンなどの小さなアミノ酸を多量に含み、一般に阻水性が強く、水に不溶の巨大分子である。

 また、エラスチンはランダム・コイル構造を多く含み、これがリジン側鎖間のデスモシンによる架橋とともに、高いゴム弾性の原因と考えられている。

[馬場昭次]

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