形状記憶効果(読み)けいじょうきおくこうか(英語表記)shape memory effect

改訂新版 世界大百科事典 「形状記憶効果」の意味・わかりやすい解説

形状記憶効果 (けいじょうきおくこうか)
shape memory effect

結晶性の固相中における相変態一種マルテンサイト変態がある。マルテンサイト変態をする合金では,高温側で安定な相を母相,低温側で安定な相をマルテンサイト相と呼ぶ。マルテンサイト変態のうちとくに熱弾性型と呼ばれるものでは,マルテンサイト相で任意に変形しても,これを変態温度以上に加熱すれば,マルテンサイト相から母相への逆変態が起こり,元の母相の形に戻ってしまう。これが形状記憶効果である(図1)。これはマルテンサイト変態を利用した記憶効果(martensite memory)であるため〈マルメム効果marmem effect〉とも呼ばれる。普通の金属塑性変形は〈すべり〉という不可逆過程によって引き起こされるため,加熱や冷却をしてもひずみは回復しない。しかるに熱弾性型のマルテンサイト変態をする合金では,加熱に際し逆変態が存在し,それが結晶学的に可逆的であるためこのような性質が現れる。このような性質を示す合金(形状記憶合金)には,Ni-Ti,Cu-Al-Ni,Cu-Zn,Cu-Zn-Al,Ni-Al合金等があり,とくにNi-Ti合金は,強度靱性(じんせい),耐食性,耐摩耗性にも著しく優れているため,すでに実用材として利用され,〈ニチノールNitinol〉という商品名で知られている。形状記憶合金は従来の金属にない性質をもった合金であるため,最近新しい機能性材料として,パイプの継手,温度感知器あるいは温度調節器,熱エネルギーの機械的エネルギーへの変換機(固体エンジン),人工腎臓用の弁等,幅広く利用されつつある。なお形状記憶合金には,変態温度以上に加熱した状態のもとでは温度を変えなくても応力を除荷するだけで元の形に戻ってしまうゴムのような性質があり,超弾性superelasticityあるいは擬弾性pseudoelasticityと呼ばれる(図2)。これは応力負荷時の応力誘起マルテンサイト変態と除荷時の逆変態によって引き起こされるものであり,超弾性ひずみは数%から20%にも及ぶ。超弾性の応用としては,機械的エネルギーの貯蔵材料としての利用が考えられている。
マルテンサイト
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「形状記憶効果」の意味・わかりやすい解説

形状記憶効果
けいじょうきおくこうか
shape memory effect

1951年にアメリカの T. A.リードが発見した現象効果。見かけ上大きく永久変形した合金片を加熱すると原形に戻る現象で,最初金とカドミウムの合金で見出されたが,その後,ニッケル-チタン,銅-亜鉛-アルミニウム,鉄-ニッケル-コバルト-チタンなどの合金にもその性質があることが知られた。この現象は,合金の変形が通常の「すべり」によるのではなく,応力によって誘起されたマルテンサイト変態による双晶の形成によって,合金の変形が生じているため,加熱によりマルテンサイトが逆変態することによって,合金はもとに戻るのである。特にマルテンサイトの逆変態温度が室温以下の場合,超弾性現象がみられる。

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百科事典マイペディア 「形状記憶効果」の意味・わかりやすい解説

形状記憶効果【けいじょうきおくこうか】

変形させた物質が,ある一定の温度以上になると元の形に戻る現象。このような性質を示す物質としては,ニッケル‐チタン合金,銅‐亜鉛‐アルミニウム合金などのいわゆる形状記憶合金のほか,各種の高分子材料が開発されている。

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