変形しても加熱などの適当な処理により原形を復元する合金.Cu-Al-Ni,Fe-Mn-Siなどいくつかの合金系で形状記憶効果が確認されているが,ほぼ1:1組成をもつTi-Ni合金がもっとも有名である.通常,金属材料の変形は転位の運動にもとづく塑性変形であるが,形状記憶合金では高温で安定な母相から低温で安定な相への変態が,原子の拡散を伴うことなく結晶全体が連携を保ち,せん断的に動くマルテンサイト変態を利用している.すなわち,高温相である母相をある形状を保ち冷却すると,原子の拡散を伴うことなく低温相にマルテンサイト変態する.このとき母相とは同等な方位関係をもつが,個々には方位の異なる複数のバリアント(兄弟晶)が発生し,外形をかえることなく低温相となる.低温相状態で応力を加えると複数存在する低温相のうち,応力を緩和する方位のバリアントが成長し外形変化が起こる.これを加熱すると変態により母相に戻り,形状回復を起こす.このようにマルテンサイト変態を利用する形状記憶合金では,変形前後であっても原子の相対的な位置関係は変化せず,変態によって形状が回復することになる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
室温(あるいは低温)で変形させても、加熱すると変形前の形に戻る性質をもつ合金。ある種の銅‐亜鉛‐アルミニウム合金、銅‐アルミニウム‐ニッケル合金、ニッケル‐チタン合金(代表例ニチノール)などでは、その組織は常温(あるいはより低温)で不安定であり、外力を加えられると別の原子配列(マルテンサイト相)に変わる。この相はある温度以下でしか安定ではないので、加熱する(あるいは室温に戻す)と元の原子配列(母相)に戻る。その際、力が加わって変形したのとちょうど逆の変形が自動的におこり、材料の形も変形前の元の形に戻る。つまり、この材料は加工される前の自分の形を記憶していたことになる。この種の合金は形状記憶のほかにも、著しく大きい弾性(ゴム弾性)や、優れた震動吸収性(防震特性)などを示す。どの程度まで変形しても元の形に戻るか、あるいはどの程度の力が得られるかなどは合金により異なり、それぞれの特徴を生かした利用が開発されつつある。おもな利用例としては、人間が直接作業することがむずかしい位置にあるチューブやパイプの締め付けや接続、電源の継手、温度制御器などがある。さらに歯列矯正や生体内クリップなどにも利用されている。
[及川 洪]
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(岡田益男 東北大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…しかるに熱弾性型のマルテンサイト変態をする合金では,加熱に際し逆変態が存在し,それが結晶学的に可逆的であるためこのような性質が現れる。このような性質を示す合金(形状記憶合金)には,Ni‐Ti,Cu‐Al‐Ni,Cu‐Zn,Cu‐Zn‐Al,Ni‐Al合金等があり,とくにNi‐Ti合金は,強度,靱性(じんせい),耐食性,耐摩耗性にも著しく優れているため,すでに実用材として利用され,〈ニチノールNitinol〉という商品名で知られている。形状記憶合金は従来の金属にない性質をもった合金であるため,最近新しい機能性材料として,パイプの継手,温度感知器あるいは温度調節器,熱エネルギーの機械的エネルギーへの変換機(固体エンジン),人工腎臓用の弁等,幅広く利用されつつある。…
※「形状記憶合金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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