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徳冨蘆花(とくとみろか)の長編小説。1900年(明治33)3月から翌年3月まで『国民新聞』に連載。5月、民友社刊。九州の士族、菊池慎太郎は、幼時、家業の破産と父の死にあい、母に家名再興を迫られて発奮。やがて出郷。苦難を重ね、帝国大学文科を卒業し、愛するお敏(とし)と結婚、在野の評論家として身をたてるまでになる。その間、キリスト教に触れ、自由人的な生き方に目覚める。巻末、帰省の場面に描かれている新吾の炭鉱経営と松村の農業形態は、蘆花の理想であった。明治前期の時代の上昇気運を明るく描いた浪漫(ろうまん)主義文学の傑作である。ディケンズの『デビッド・カパーフィールド』に学び、蘆花自身の思い出の断片を生かして書かれたもの。
[吉田正信]
『『思出の記』(『現代日本文学大系9』所収・1971・筑摩書房)』
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