一般に,ある時代に支配的な知的,政治的,社会的動向を特徴的に表す全体的な精神的傾向をいう。この言葉は,もともと,18世紀後半から19世紀にかけて,とくにドイツにおいてつくられたもので,〈民族精神Volksgeist〉という概念の形成と相関している。ヘルダーは,民族的な精神文化,とくに民俗的,地方的な言語や詩に深い関心を寄せるとともに,人類史を人間精神の完成に向かう普遍的歴史としてとらえる考え方を提示し,〈もろもろの時代の精神〉を示す〈諸民族の精神〉,〈諸民族の天才〉などの概念を用いた。さらに,ヘーゲルは,〈民族精神〉(近代国民国家の形成にともない〈国民精神〉ともなる)を,人類史(世界史)の発展の諸段階における普遍的な〈世界精神Weltgeist〉の顕現と考え,民族精神の歴史的,時代制約的性格を明確にした。こうして,普遍的な人間精神が特殊的,歴史的現実に具現するところに,ある時代の精神=文化の特徴を表す時代精神の存在をみる見方が確立される。
このような考え方は,19世紀を通じてしだいに歴史学や法学,経済学などさまざまな分野で展開された。ディルタイは,時代精神を,知(考え方),情(価値観),意(目的)の精神的生の作用連関においてとらえ,価値観を中核に,これら作用連関の表出(歴史と文化)のうちに時代精神を了解する精神科学を提唱して,大きな影響を与えた。こうして,時代精神を,ある時代のある国民が自己を自覚する原理(歴史意識)とみる考え方とともに,ある国民の思想と文化がある時代のもつ条件(精神風土)に制約されるという考え方がひろがり,イギリスやフランスにも受け入れられて,ドイツ的な超越論的精神とはちがった多様な理解が生まれた。そして,歴史における時代区分の問題にも影響を与えるなど,多面的に拡散しながら,今日では一般的な用法に解消している。
→歴史主義
執筆者:荒川 幾男
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一般にはある時代の哲学、文学、芸術などの作品に共通するその時代の人間の精神態度。精神史のうえで、たとえばルネサンスの時代精神は何かといった形で問題にされる。
時代精神Zeitgeistということばは、ドイツではヘルダーが1769年に初めて使ったといわれており、ゲーテも『ファウスト』のなかなどで用いているが、時代精神を歴史の過程と結び付け、それを個々の人間精神を超えた普遍的世界精神が歴史のなかで自己を展開していく各過程でとる形態とみたのが、ヘーゲルであった。ヘーゲルはそれをさらに民族精神と結び付け、東洋、ギリシア、ローマ、ゲルマンの4段階に区分する。なおコントは、子供から大人に至る個人の精神の成長過程との類比で、古代から近世への人間精神の発展段階を神学的、形而上(けいじじょう)学的、実証的の3段階に分けたが、これも時代精神の一種の区分とみることができよう。また唯物史観の立場からすると、時代精神はイデオロギーであって、それはそれぞれの時代の経済的構造に依存していることになる。
ところでヘーゲルやコントにあっては、歴史の進歩とともに時代精神も進歩すると考えられているが、19世紀の歴史主義になると、時代精神はそれぞれの時代において完結した1回限りのものとされ、歴史における人類の進歩という思想は色あせ、それにかわって歴史的相対主義が登場する。
[宇都宮芳明]
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