家庭医学館 の解説
ぼにゅうのでをよくするにゅうぼうのていれ【母乳の出をよくする乳房の手入れ】
赤ちゃんを胸に抱いて母乳を与えることは、赤ちゃんにとって、栄養面はもとより、精神的な発育にも好影響を与える自然で理想的な栄養法です。
母乳栄養には、一般的につぎのようなメリットとデメリットがあります。
●母乳栄養のメリット
①発育に必要な栄養成分が適度に含まれ、消化しやすくなっています。
②母乳は無菌的なので衛生面でも安全。
③感染から赤ちゃんを守る、免疫成分(抗体(こうたい))を含んでいます。
④味、香り、温度などが温和で、赤ちゃんの嗜好(しこう)に適しています。
⑤赤ちゃんの顎(あご)の発達にも好影響。
⑥スキンシップ、アイコンタクトなどで母と子の愛情の結びつきが強くなり、子どもの人格形成にも好影響。
⑦経済的で、手間がかかりません。
⑧母乳の分泌(ぶんぴつ)は、母体の子宮(しきゅう)の回復を促進します。
●デメリットとその対策
①人工栄養児に比べ、母乳栄養児は黄疸(おうだん)がでやすく、長びくといわれていますが、病的な黄疸との鑑別はできますので心配はありません。
②母乳栄養児は、乳児ビタミンK欠乏性出血症(新生児の場合、下血(げけつ)、脳出血、歯肉出血などの症状がおこる)の頻度が高いといわれています。しかし、妊娠中にビタミンKを多く含む食品を摂取し、乳児にはビタミンKの内服や注射をすることで発症を防げます。
③お母さんが薬剤を使用している場合、母乳の中に薬剤が出ることがあります。赤ちゃんへの薬剤の影響は、薬の種類により異なります。母乳をあきらめる前に、医師に相談しましょう。
④環境ホルモン(ダイオキシン)による汚染も考えられますが、今のところ、母乳を中止する理由はありません。
◎妊娠中の乳房の手入れのしかた
●始める時期
母乳を分泌する準備は、妊娠中から始まっています。乳房の手入れは、胎盤(たいばん)が完成し安定期に入る妊娠16週ごろから、毎日でも行ないましょう。ただし、流産や早産の徴候のある人や、安静の指示が出ている人は、医師に相談してからにしましょう。
●乳房の血行をよくするマッサージ
母乳は、乳腺(にゅうせん)で血液の成分からつくられます。そこで、血管が多く分布する乳房のつけ根の血液の循環を、妊娠中からよくしておくことがたいせつです(図「乳房基底部のマッサージ(1)」、図「乳房基底部のマッサージ(2)」、図「乳房基底部のマッサージ(3)」)。
●乳くび(乳頭(にゅうとう))の手入れ
赤ちゃんは、乳くびに舌をまきつけるような形で吸います。そのため、乳くびが乳輪(にゅうりん)の中に埋まっているような陥没乳頭(かんぼつにゅうとう)や、乳くびの先がたいらになっている扁平乳頭(へんぺいにゅうとう)、かたくて大きい巨大乳頭などは、赤ちゃんが吸いにくいため、授乳がむずかしく、トラブルもおこりやすくなります。赤ちゃんが吸いつきやすいように、そして、吸いつく刺激に慣れておくためにも、妊娠中から乳くびの手入れを始めましょう(図「乳頭・乳輪部のマッサージ」)。