デジタル大辞泉 「竜」の意味・読み・例文・類語
りゅう【竜〔龍〕】[漢字項目]
〈リュウ〉
1 想像上の動物。たつ。「竜王・竜宮・竜頭蛇尾/天竜・登竜門」
2 すぐれた人物。英雄。「竜象・
3 天子に関する物事に冠する語。「竜顔」
4 恐竜のこと。「剣竜・翼竜・雷竜」
〈リョウ〉
1 の1・2に同じ。「
2 の3に同じ。「
[補説]「リュウ」と「リョウ」の音は特定の語を除いて多く互用する。
〈たつ〉「竜巻」
[名のり]かみ・きみ・しげみ・とおる・めぐむ
[難読]
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想像上の動物。
中国では鱗介類(鱗(うろこ)や甲羅を持った生物)の長(かしら)だとされる。竜は平素は水中にひそみ,水と密接な関係をもち,降雨をもたらすとされる。しかし竜のより重要な性格は,時がいたれば水を離れて天に昇(のぼ)ることができるという点にあり,この地上と超越的な世界を結ぶことに竜の霊性の最大のものがある。仙人となった黄帝が竜に乗って升天したり,死者が竜あるいは竜船に乗って崑崙山に至るとされるのも,竜のそうした霊性を基礎にした観念である。天子の象徴として竜が用いられるのもその超越性によるものであり,竜の出現が新帝の即位をあらわす祥瑞とされ,また天子が儀礼に用いる衣服の文様,十二章の中でも竜が最も重要なものである。また竜の隠れるもの,変化きわまりないもの(たとえば竜は大きくも小さくもなれる)という特質から,大きな才能をもちながら世に現れぬ人物の比喩にも用いられる。孔子が老子を〈竜の猶(ごと)し〉と言ったのがそれである。
こうした超越的な動物である竜の原像となったのが何であったかについては,さまざまな推測がなされている。蛇との関係を指摘するのは水との結びつきにより,その鼻の形から豚,四足のある所から鰐(わに)と関係があるとされ,また天地を結ぶところから竜巻を原形としたとする説もある。出土遺物からみれば,後世の竜とつながる文様や竜形の玉器はすでに新石器文化の中に出現しており,卜辞にも竜の字が方国,部族名として見える。甲骨文の竜の字に特徴的なのは,その頭上にアンテナのような飾りを戴くことで,これがのちには尺木と呼ばれる竜の角となるもので,竜は尺木があるので天に升(のぼ)れるのだとされる。《礼記(らいき)》では,竜は鳳,麟,亀とともに四霊の一つとされ(鳳凰(ほうおう),麒麟(きりん)),漢代に成立した四神の観念の中では,東方に位置づけられて青竜と呼ばれる。四神の観念の成立にともなって竜の図像も多数出現するようになるが,そこでの竜は立派なたてがみと足とを持ち,馬との類似性が大きい。竜は天帝の馬だとされ,逆に大きい馬が竜と呼ばれるのも,竜と馬との習合を示唆しよう。
仏教伝来にともない,仏法を守護する八部衆の一つとしての竜(竜王)が中国古来の竜と重なり合い,四海竜王の観念が中国に定着するのもそうした結果である。仏典の中では竜王が人間的に活躍するが,中国の小説や戯曲の中に竜王や竜女の物語が展開するのもまた,そうした外来文化の影響によったものであろう。現在の民話の中に竜王や竜女がしばしば出現するほか,旧暦2月の春竜節には冬のあいだ眠っていた竜を呼びおこす種々の行事があり,また端午節には竜船の競争が行われるなど,季節の行事の中に水と豊作をつかさどる竜の農業神的な性格をみることができる。
執筆者:小南 一郎
日本では竜はしばしばヘビと同一のものの形象として現れ,特に水や水神,あるいは嫉妬にもえる女などが竜の姿をとるとされることが多い。
→俱梨迦羅(くりから) →竜王信仰 →竜神
西洋では竜をドラゴンdragonと呼ぶが,これはヘビを意味するギリシア語drakōnに由来する。しかもこのギリシア語はderkesthai(〈睆(にら)みつける〉の意)と近縁の語とされ,ヘビ一般の凝視行動との関連が予想される。多くの伝承において,竜は地中,洞窟,水中などに潜み,そこに隠された宝物を護る。口から火を吐き,体に流れる血も炎でできているため,つねに体を冷やさなければならず,大量の水を飲む。また森に住む竜は草を食べて体を冷やすので緑の体色をしている。一方,アフリカやインドに住むものはゾウの冷たい血を飲もうとして休みなく死闘を繰り返す。大プリニウスの《博物誌》によれば,この宿敵同士が闘うと,竜はゾウに巻きついてこれを倒すが,ゾウの体重に耐えきれず押しつぶされるので,たいていは相討ちに終わるという。
西洋の竜は四肢を持つトカゲ型と,一対の翼および一対の肢を持つ鳥型に分けられるが,両者を混同した四肢二翼型や東洋の竜から影響を受けた形態のものもある。大きさは一定せず,空を飛ぶと大竜巻が起きるほど巨大なものから,イヌ程度のものまでさまざまである。その力は強く,ワシのような鉤爪と鋭い毒牙を備える。アリストテレスなどの記述に,翼ある竜はエジプトやエチオピアに産し,巨大なヘビ型の竜はインドに住むとあるが,前者は神としての有翼蛇,後者はニシキヘビの姿がもとになっているらしい。
強大な獣の属性を完備し,地中の秘密ないし生産力を独占する竜は,権力や豊穣の象徴であり,授精力をもつ地霊の性格をあらわす。その超自然的な力は畏敬の対象であり,古代ローマでは軍団が竜の旗を掲げ,西ヨーロッパ,とくにイギリスでは王家の紋章に用いられた。北ヨーロッパにおいても竜は海軍の象徴であり,バイキングは船のへさきに竜頭を飾った。したがって,この恐るべき地霊を殺害し,大地の秘密や恵みを人類に解放する英雄は,西洋各地の建国伝説などに繰り返し登場することになる(竜殺しのテーマ)。これについてユング心理学では,混沌の象徴である竜が殺されて秩序が生じる過程を,人間の意識の発展と解釈する。ギリシア神話の怪物ピュトンはアポロンに射殺されて,同地の支配を人間の手にゆだねる。テーバイの建設者カドモスはアレスの泉を護っていた竜を斬り殺す。彼が女神アテナの命に従い竜の歯を地面にまいたところ,地中から戦士たち(スパルトイSpartoi。〈播かれた者〉の意)が出現したという。さらに《黄金伝説》には有名なゲオルギウスの竜退治が語られる。ゲルマンの叙事詩《ニーベルンゲンの歌》に登場する英雄ジークフリートも竜を殺す。これらの竜はいずれも無意識・混沌を示す円環的時間(進歩のない歴史)の隠喩であり,ギリシアではみずからの尾を嚙む竜ウロボロスで表された。この永続が破れ,進歩へ向かう歴史(直進的時間)が開始される経緯を表したのが竜殺しのテーマであるといえるかも知れない。
一方,キリスト教伝説に取り入れられた竜は,ゲオルギウスの物語にも明白なように,荒ぶる者,邪悪なる者のシンボルとなった。大天使ミカエルの竜退治をはじめ,聖人に殺される竜はみな〈悪〉の象徴である。このため竜はサタンとも同一視された。《ヨハネの黙示録》には七つの頭,10の角,七つの王冠を持つ巨大な竜が出てくる。中世の宗教画に頻出する地獄の口も,大口をあけて罪人の魂を飲みこむ竜の姿になっている例が多い。
なお17世紀に火器を装備した軍隊が組織されたが,火を吐く竜との連想から〈竜騎兵dragoon〉と呼ばれた。彼らが使用した大口径の短銃もドラゴン(竜騎銃)の名をもつ。
執筆者:荒俣 宏
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想像上の動物。胴体はヘビ、頭にはシカのそれに似た角が2本あり、口のところに長いひげを生やし、背には81枚の堅い鱗(うろこ)をもち、4本の足にはそれぞれ5本の指を備えた巨大な爬(は)虫類として描かれる。タツともいう。中国では、古来鱗虫の長とされ、麟(りん)、鳳(ほう)、亀(き)とともに四瑞(しずい)の一つとして神霊視された。仏教では八大竜王といって8種の竜王がいるが、そのなかの娑伽羅(しゃがら)竜王が海や雨をつかさどるとされることから、航海の守護神や雨乞(あまご)いの神として信仰される。わが国の民間で、雨乞い祭りの際に、竜が住むという池の水を用いたり、またその池で行われたりするのは、この信仰と同一である。山岳宗教で名高い戸隠(とがくし)山には九頭竜権現(くずりゅうごんげん)が祀(まつ)られているが、この竜の住む池がやはり雨乞いの祈願所になっている。大雨や洪水などの現象を竜の怒りとする言い伝えにも、竜が水をつかさどるという意識が表れている。一方、海神とのかかわりが指摘されるものに、記紀神話の豊玉姫(とよたまひめ)説話があげられる。海神の娘である豊玉姫がお産のために産屋(うぶや)に入り、本(もと)つ国(くに)の姿になったようすを『日本書紀』では竜になったと記している。現在でも漁民の間では、竜は豊漁や海上安全を守護する海神として信仰されている。その漁民の俗信のなかに、海上で金物類を落としてはならないとする禁忌があるが、それは鉄を竜神が嫌うからだといわれる。一般に鉄を嫌うのは蛇とされる。このことは、竜神信仰の根底に水神の表徴である蛇信仰の存するのを教えてくれる。
竜はまた雷神ともかかわりが深い。竜は中空を飛行して雨や雲をおこしたり、蛇の形をした稲妻を放つとされる。「竜天に昇る」ということばは、聖人が天子につくことや英雄の華やかな活躍のたとえに用いられるが、まさに竜が天に昇るような勢いの謂(いい)であろう。中国では竜が雨雲にのって昇天するという考え方が古くからある。わが国でも同様な考え方はあって、竜神は竜巻のときに昇天するのだという。沖縄には次のような昔話がある。男が桑の木の根元に寝ているハブをみつける。目を覚ましたハブは仙人に姿を変え、山で千年、海で千年、丘で千年過ごすと天に昇って竜になれるが、それを人に見られては昇れないので、このことを絶対に他言しないという約束で昇天する。男は約束を守り一時裕福になるが、あるときうっかり口にしてしまい、以後はもとの貧乏に戻るという内容の話である。青森県の話には、大蛇が、桂(かつら)の大木がじゃまになって昇天できないと木こりに訴える。そこで木こりはその桂の木を伐(き)って昇天させたという例がある。地上の蛇が年月を経て昇天し竜になるというモチーフは、蛇信仰が竜神信仰へと変化していく過程とみなされる。
竜のすみかは竜宮とよばれ、その場所は洞窟(どうくつ)、湖沼や海の底にあるとされる。竜神は乙姫(おとひめ)様と住んでいるという。そうした竜宮に関する説話のなかで、よく知られているのが「竜宮淵(ぶち)」の伝説である。その淵が竜宮に続いているといって、ときおりその淵から機(はた)織りの音が聞こえてくるとか、またその淵に必要な膳椀(ぜんわん)を貸してくれるように依頼すると用意してくれるという。ただし心がけの悪い者がいて返さなかったために、貸してくれなくなったと伝えている。昔話のなかには、人間が竜宮を訪問するというモチーフの話がいくつかある。その代表的な例が「浦島太郎」である。古くは『丹後国風土記(たんごのくにふどき)』や『万葉集』にもみえる。同系統の話としてほかに「竜宮童子」「竜宮女房」といった昔話もある。「竜宮童子」は、貧乏な男が薪(まき)を水中に投下すると、そのお礼にといって亀(かめ)が竜宮に案内する。竜宮からの土産(みやげ)にハナタレ小僧をもらう。その小僧をだいじにすると豊かになるが、慢心して粗末にするので元の状態に戻ってしまうというのがその内容である。「竜宮女房」は、竜宮から嫁にきた女房に対して、権力者が横恋慕して難題を課してくるが、女房の知恵で解決し幸福に暮らすという話である。これらの話には、神に選ばれた人間が竜宮を訪問し、富を得るという共通した要素がみいだされる。古代には竜宮は常世国(とこよのくに)ともよばれ、それは一種の理想郷であり、同時に富の源泉として意識されていたのであった。そうした信仰が説話に反映されているのである。
ヨーロッパの昔話に「竜退治」という話がある。犬を連れた若者が、王女をいけにえに求める竜を退治し、王女と結ばれるという内容の話である。わが国の昔話では「猿神退治」に相当する。一般にヨーロッパの竜は、大ヘビを形象化したもので、悪神の化身のように考えられている。宝物などを守っているが、ついには英雄や神々に殺される運命にある。東洋の竜は総じて、現実生活と結び付いて人々に幸福を招来する善神としての傾向が強い。敵対するよりは調和を求めようとする一面は、その民族的性格を反映しているようである。
[野村純一]
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…蛇は昔から繁殖,農業,再生の象徴とみなされ,したがって繁殖の象徴である湖と関係があった。すなわち蛇(または竜)は水神で,湖の中に住み,洪水を起こしたりすると考えられた。また湖には,鐘が沈んでいるという沈鐘伝説,寺院が沈んでいてときとしてその鐘の音がきこえるという沈める寺伝説,白鳥の湖伝説など種々の物語がまつわり,劇,音楽,バレエなどの題材にもなっている。…
…ごく小さなウナギをメソ,メソッコと呼び,頭をつけたままさき,串に巻きつけて焼く。これを竜の姿で剣に巻きついた俱利迦羅竜王(くりからりゆうおう)に見立てて俱利迦羅焼きという。土用の丑(うし)の日にウナギを食べる風習はうなぎ屋の商策に出たものであるが,暑中の栄養補給からみて当を得ており,1820年代には行われていた。…
…同時に御霊信仰は,人間にとって恐るべき神の存在を強く押し出したものであるため,これによって雷の性格が決定されることになった。 中国においても雷は竜と連想されており,水の乏しい時期から雨の多い季節に移り変わる6月のころに雷鳴や稲妻を伴う降雨が大旋風の後に乾ききった大地の上におとずれるありさまが深い印象を古代人に与え,竜が地中から天に上るというような考えを生み出したといわれている。華北では雷神は太鼓と連想され,また車に乗って遊行すると考えられている。…
…そのコースを〈地脈〉という。風水説では,この地脈を〈竜〉とよび,そのなかでも生気のわだかまる所を特に〈穴〉とよび,そこに墓を営むと生気が死者の肉体を媒介にして子孫に感応し,その家は栄えるという。このように大地は,気というエネルギーに充たされた,一個の巨大な生命体と考えられていたのである。…
…使徒時代以後は,キリスト復活によってサタンは一度敗北したが,絶えず神に敵対し策謀をめぐらすものとして,また反キリスト教勢力を動かす力として言及される。サタンは,エデンでイブを誘惑したヘビや,ミカエルによって天上を追われた竜とも同一視される。
[サタンの図像]
西洋美術にはサタンはひんぱんに登場し,その姿は多様である。…
…文献的には戦国期以後のものにみえ,人作りしたことは《楚辞》天問に,また共工が顓頊(せんぎよく)に敗れて怒って天柱を折り,女媧がこれを補修したという補天の話は,《淮南子(えなんじ)》覧冥訓にみえる。その身は竜体で,同じく竜体の伏羲と下体が相交わる神像として,のちまでも行われた。【白川 静】。…
…ヒンドゥー教の神名。〈竜〉と漢訳されたが,本来は中国の竜とは異なり,蛇,とくにコブラのことである。蛇神崇拝はすでにインダス文明において存在したと推測される。…
…大乗経典に仏の説法の聴衆として登場する。天竜八部衆ともいう。(1)天(デーバdeva) 神のことで(devaはラテン語deusと同系),帝釈天をはじめとする三十三天など。…
…なお奈良県唐古遺跡を中心とする近畿地方では,IV期(中期末)に鹿,高床建物,人物などを土器に描くことが始まり,九州,関東に及んだ。V期(後期)に入ると絵画よりも記号風の表現が多くなるが,竜を描いたものも数例あり,水を呼ぶ想像上の動物としての竜の知識が伝わっていたこともわかる。
[製作技術]
教科書や概説書などでは,縄文土器と弥生土器が明瞭に識別できるかのように記しているものが多い。…
…一つは,素戔嗚(すさのお)尊の八岐大蛇(やまたのおろち)退治の神話や源頼光の酒呑童子(しゆてんどうじ)退治伝説にみえるように,呪力や武力で威嚇して追い払ったり退治したりするという方法であり,いま一つは,妖怪と一定の関係を結ぶことを通じて制御可能なものにする,すなわち,妖怪を恒常的もしくは一時的に〈神〉としてまつり上げることによって妖怪の邪悪な側面を封じ込め,さらには幸福をもたらす霊的存在に変化させようとする方法である。たとえば,《常陸国風土記》にみえる,人々を苦しめる竜蛇の姿をした〈夜刀神(やとのかみ)〉は,その一部は退治されるが,残りは神社を作ってまつられることで人々の氏神・守護神となっている。民間でも,邪悪な妖怪を小祠に封じ込めたり,村落の外にまつり捨てたりすることで,その邪悪な側面を除去しようとした。…
※「竜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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