カルメン(読み)かるめん(英語表記)Carmen

翻訳|Carmen

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルメン」の意味・わかりやすい解説

カルメン
かるめん
Carmen

フランスの作家メリメの中編小説。1845年刊。衛兵伍長(ごちょう)ドン・ホセは、セビーリャ煙草(たばこ)工場の女工カルメンの魅力のとりことなり、彼女の手引きで密輸業者の群れに身を投ずる。彼女の情夫と渡り合って相手を殺すはめにまで落ちたものの、奔放なトルソ人カルメンは、まもなく闘牛士ルカスに心を移す。アメリカで新生活を始めようと迫るホセに手ひどい拒絶を投げつけた彼女は、予期していたかのようにホセの刃(やいば)にかかって死ぬ。占いの告げるところを彼女は信じていたのである。以上は第3章のホセの懺悔(ざんげ)話の内容で、第1章および第2章は、それぞれ話者とカルメン、話者とホセの邂逅(かいこう)の次第を物語り、最終章は筋と関係のないジプシー談義に終始する。メリメの愛用した額縁つき物語の典型である。抑えようもなく暴走する情熱、運命との抗争としかいいようのないアウトローたちの行動とその必然的破局を、例によって異国趣味とペダントリーの彩りを添えつつ、抑制のきいた筆でメリメは描破する。構成の巧みさと相まって、作者の代表作とするに足りよう。

[冨永明夫]

オペラ

ジョルジュ・ビゼーが、メイヤックとアレビーの台本により作曲。1875年、パリのオペラ・コミック座初演。のち正歌劇に改作(同年ウィーン初演)。音楽は原作の内容に即してスペイン民謡を大幅に取り入れ、実に地方色の強いものとなっている。カルメンの歌う「ハバネラ」などはそのよい例であり、民族音楽のもつ活力を芸術音楽に注ぎ込もうと試み、それに成功した点で、この作品はムソルグスキーの『ボリス・ゴドゥノフ』と双璧(そうへき)をなしているといえよう。当時の慣習に従って、アリアデュエットなどがそれぞれ独立した「番号オペラ」の形式をとり、フランス・オペラの伝統的な手法を受け継いではいるが、創意あふれる旋律、明晰(めいせき)なオーケストレーション、そして鮮やかな劇的効果には、名曲のみがもつ一回性が感じられる。日本初演は1919年(大正8)ロシア歌劇団による。

[三宅幸夫]

『杉捷夫訳『カルメン』(岩波文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カルメン」の意味・わかりやすい解説

カルメン
Carmen

リュドビク・アレビとアンリ・メイヤックの台本による,ジョルジュ・ビゼー作曲の 4幕オペラ。初演は 1875年3月3日パリのオペラ・コミック座。プロスペル・メリメの小説『カルメン』Carmenに取材したロマの女カルメンと竜騎兵ドン・ホセの恋愛悲劇を,スペインを舞台にして異国情緒豊かにうたい上げている。『前奏曲』『ハバネラ』『ミカエラの詠唱』をはじめとする数々の名アリアで,世界で最も人気のあるオペラの一つ。

カルメン
Carmen

フランスの作家プロスペル・メリメの小説。1845年刊。スペインのロマの生活を背景に,ロマの女と兵士の情熱と死の物語を,冷たく整った文体で描く。スペインの竜騎兵伍長ドン・ホセは,たばこ工場の仲間を刺したロマの美女カルメンを連行する途中,その誘惑に負けて彼女を逃がす。一兵卒に落とされたドン・ホセは,嫉妬から上官を傷つけて軍隊を脱走,密輸や追いはぎの仲間となってカルメンと暮らす。浮気で冷酷なカルメンの心をつなぎ止めるために,彼は殺人さえ犯すが,すでに彼女は闘牛士ルカスに心を奪われている。嫉妬に狂ったドン・ホセは,カルメンを刺し殺す。

カルメン
Carmen

P.メリメの同名の小説によるバレエ。5幕。 (1) ローラン・プチ振付。音楽 G.ビゼー。 1949年ロンドンのプリンス劇場で初演。カルメンをプチの妻ジジ・ジャンメールが演じ,そのベッドシーンがスキャンダルを巻起した。 (2) アルベルト・アロンソ振付。正式には『カルメン組曲』 Carmen Suite。編曲は M.プリセツカヤの夫 R.シチェドリン。 1967年モスクワのボリショイ劇場で初演。 A.アロンソのほか,プリセツカヤが演じて高い評価を得た。以来,ボリショイ・バレエのレパートリーになっている。

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